オリジナル小説「密造」NO.4


<4>コピーの密造



  三日後、午前十時に地下鉄の本所吾妻橋駅の外で麻美と健太は待ち合わせた。健太の
住まいは墨田区押上なので、彼も都営浅草線の地下鉄に乗って来ることになった。先に到着
した麻美が交差点の角に立っていると、十時ちょうどに健太が地下鉄の階段を駆け上がって
きた。
「おはよう。待たせちゃったみたいだな」と、健太が息せき切って駆けつけた。
「だいじょうぶ。私もさっき着いたばかりなの」
「それならいいんだけどさ」
「この通りをまっすぐ行ったとこなの」
「何から何まで面倒かけちゃって、本当に済まないね」
 歩き出した健太が、そう言って頭を下げた。
「面倒だなんて思ってないから、気にしないで。健太さんが苦しんでるのを黙ってみてられない
だけなの」
「ありがとう。本当に感謝してるんだ」
「知り合いに、たまたまバッタ屋の人がいたんで、無理を承知で相談したの。そしたら、もってこ
いの仕事があるんで、二人で出直してくれって言われたの。昨夜の電話でも言ったけど、運が
悪いと警察沙汰になるかもしれないらしい。大金を手に入れよう思ったら、まともなことじゃ無
理だもんね」
「僕の借金なんだから、責任は僕が取ることにする」
「あそこに見える二階建ての家がそうなの」
 前方の渡辺企画の建物を指差して麻美が言った。
 一方の健太は、大きく背筋を伸ばし、緊張した面持ちで心の準備をした。
 玄関の前で麻美が振り返ると、腹を決めた健太が頷いたので、彼女はゆっくりと引き戸を開
けた。
「お邪魔します」と、言って先に麻美が中へ入り、その後に健太が続いた。
「いらっしゃい。どうぞ座ってちょうだい」
 机の前で書類を整理していた銀次郎が、二人の方を一瞥して言った。
 そんな銀次郎の落ち着き払った態度に萎縮した健太は、伏し目がちに一礼してソファーに腰
を下ろした。
「ちょっと待ってくれ。すぐに終わるからさ」
 そう言った銀次郎は、電話で喫茶店にコーヒーを注文してから、急いで書類を引き出しの中
にしまいこみ、徐にソファーの方へ歩み寄った。
「初めまして。高橋健太と申します」と、腰を上げて健太が頭を下げた。
「渡辺です。よろしく」
 軽く頭を下げ、銀次郎は二人と対座した。
「よろしくお願いします」と、麻美も一礼した。
「すぐにコーヒーが来るからさ、もっとリラックスしてちょうだいな」
 畏まった二人の態度を解すように言って、銀次郎が背筋を伸ばした。
「ところで、高橋さんの仕事は?」
「日用雑貨を小さいスーパーに卸してるんです」
「例えば?」
「石鹸とか、シャンプーとか、ティッシュとか、トイレの消臭剤とか」
「なるほどね。それじゃあ、仕入れ金が必要になってくるわな」
「そうなんですよ。だから、いつも資金繰りが大変でね」
 そんな銀次郎とのやり取りで、次第に健太の気持ちが解れていった。
「だいたいのことは麻美ちゃんから聞いたんだが、手形を落とすための金が足りないってことだ
そうだね」
「そうなんです。恥ずかしい話なんですが」
 そう言って健太が頭を掻いた時、引き戸が開いて喫茶店のウェイトレスがコーヒーを持ってき
た。                                  
「コーヒーを飲んでから本題に入ることにしようぜ。さあ遠慮なく飲んでくれ」
 テーブルの上のコーヒーをブラックで飲みながら銀次郎が煙草を吸い始めた。
 それを見た健太もジャンパーのポケットから煙草を取り出し、ほっとした顔付きで煙草をふか
した。
「話の大筋は麻美ちゃんから聞いてもらったと思うんだが、運が悪けりゃ警察沙汰になることも
あるんだ。登録商標法違反ってやつでね」
「覚悟はできています。そうなった場合は、自分が責任を取るつもりですから」
「覚悟だけはしておいてくれってことで、そんなに心配することはないさ。ちょっと待ってくれ」
 立ち上がった銀次郎が、壁際の段ボール箱からモスグリーン色のジャンパーを取り出した。
それを持ってソファーに座り直した。
「これはアメリカ空軍のパイロット・ジャンパーなんだ。これと同じモノを三百着密造してほしいん
だわ」と、言って銀次郎がジャンパーを健太に手渡した。
「密造するって、どうすればいいんです?」
「そんなに難しいことじゃねェよ。段取りは教えてやるから、その通りにすればいい。それより、
ジャンパーの仕入れ金と刺繍屋に支払うワッペン代が必要なんだけど、それはいつでも用意で
きるんだね?」
 麻美の顔を覗き込んで銀次郎が確認した。
「全部でいくらになるんですか?」と、恐る恐る麻美が問い返した。
「百十万から百二十万の間だと思う。うまくすりゃあ百万程度で済むだろう」
「それなら、今すぐにでも用意できます。銀次郎さんに渡せばいいんですか?」
「勘違いしないでくれ。密造するのは俺じゃないんだ。麻美ちゃんたちがやることなんだから、
金を俺に渡す必要はねェよ」と、言って銀次郎が苦笑いをした。
「そしたら、密造する方法を教えて下さい」と、健太が割って入った。
「このジャンパーはMA1と言って、馬喰横山の現金問屋に行けば三千円程度で仕入れられ
る。三百着を仕入れるのに九十万円が必要ってことだ。問題なのは胸に縫い付けてあるワッ
ペンだな。これは刺繍屋に発注するしかねェ。東京じゃなくて、桐生の刺繍屋がいい。見積もり
が安いし、仕事が早いし、何よりも安全だ。東京で密造品を作ったら、何処から情報が漏れる
か分かりゃあしないんでね」
「桐生の刺繍屋って、どうやって調べればいいんです?」
 その気になった健太が身を乗り出して尋ねた。
「桐生に刺繍屋はたくさんあるから、俺が知ってるところを教えてやるよ。ジャンパーからワッペ
ンをはがして、それを刺繍屋に送ればいい。遅くても十日あれば作ってくれるさ。そのワッペン
を縫い付けるのは東京の小さい縫製屋に頼めばいい。そうして完成したものを俺に預けてくれ
りゃあ、1着につき七千五百円を先方から受け取ってやるからさ」
「ワッペン一枚の刺繍代って、いくらぐらいになるんです?」と、健太が確認した。
「千円前後だと思うんだけどな。するってェと、1着につき、三千五百円の儲けになるってこと
だ。それに三百を掛けると、百五万円の儲けになるってことだよ」
「本当ですか?なんか、信じられない」
 胸の前で両手を組んだ麻美が、喜びをかみ締めながらホットした顔で何処か遠くを見た。
「ありがとうございます。一生恩に着ますんで」と、満面の笑顔で健太が深々と頭を下げた。
「礼を言うなら、俺じゃなくて麻美ちゃんに言ってくれ。彼女が俺のとこへ相談に来なきゃ、先方
には断りを入れてた話なんだから」
「分かってます。彼女には、後でちゃんと感謝の気持ちを伝えますんで」
「そうかい、そうかい。好きなようにしてくれ」
 苦笑いして銀次郎が頭をふったので、麻美は照れくさそうに目を伏せた。
「そんなことより、高橋さんの名刺をもらえないかな。何かと連絡を取らなきゃなんないんでさ」
「失礼しました。名刺のこと、すっかり忘れてました」と、言って健太が名刺を手渡した。
「押上だったら近いじゃないか。とにかく、こまめに連絡してほしいんだ。遠慮しないで、いつで
も電話してくれ。うちの名刺も渡しておくんでさ。直接話がしたい時は、顔を出してくれりゃあい
い。酒の相手にだってなろうじゃないの」
 そう言って銀次郎が机の引出しから取り出した名刺を健太に手渡した。
「何から何まで、本当にありがとうございます」と、健太が恐縮して頭を下げた。
「段取りとして、先にジャンパーを仕入れておくんだ。それからワッペンを作ればいい。絶対に
損はさせないから、俺を信じてがんばってくれ」
「銀次郎さん、ありがとう!」と、感極まって麻美が目頭をおさえた。
「これ以上女を泣かすんじゃないぞ。分かってんだろうな?!」
 居たたまらなくなって銀次郎が健太に発破を掛けた。
「済みません。死に物狂いでがんばります」
 そう言った健太が、厳しい顔付きでジャンパーを手に持って立ち上がった。そして麻美を促し
て外へ出た。
「ありがとう。本当に感謝してるから」
 目を潤ませたままの麻美の肩を健太が抱き寄せた。そして二人は黙ったまま病人のような重
い足取りで吾妻橋の交差点まで歩いていった。
「いったん家へ戻って車で馬喰横山へ行くことにしよう」
 そう言って健太が先に地下鉄の階段を下りていった。
「女を泣かすんじゃない」と、吐き出すように言った銀次郎の言葉が健太の胸をえぐった。その
言葉がいつまでも耳に残り、しばらく平常心を取り戻すことができなかった。
 今の健太には言い返す言葉さえない。今は全てを麻美に依存するしかないのだ。そうした現
状が、実に情けなくて嘆かわしくて惨めであった。しかし今回の手形さえ落とすことができれ
ば、会社を再建することも夢ではない。そうすれば、麻美に恩返しをすることだってできる、と健
太は自分に言い聞かせた。
 切符売場の前に立った時、ちょうど電車が走りこんできた。二人は急いで切符を買って改札
口を通り抜けた。そして開いたドアから電車に飛び乗った。
「間に合ってよかった」と、息せき切った健太が満面に笑みをたたえて言った。
「間一髪だったわね」と麻美も破顔一笑した。
 それをきっかけにして二人の胸のわだかまりが解けていった。麻美の助力を無駄にしないで
切羽詰った局面をなんとしても打開するんだ、と健太は前向きな気持になっていた。一方の麻
美も、今は健太と一心同体なんだという思いを強くした。

 押上の駅で降りた二人は、手をつなぎながら健太の事務所まで歩いた。健太にすれば、本
当に久し振りの晴れやかな心持だった。死んだ方がましだとさえ思った昨日までの彼とは、ま
るで別人のように生き生きとしていた。
 三階建ての小さい貸しビルの一階に健太の事務所がある。健太に促された麻美は、緊張し
た面持ちで中へ足を踏み入れた。
 倉庫も兼用になった室内のいたる所に、たくさんの段ボール箱が山積みになっている。開い
た箱の中には洗剤やシャンプーの容器が入っていた。
 机の上にジャンパーを置いた健太が、改まった顔で麻美を見詰めた。
「ジャンパーの仕入れ金は、立て替えてもらえるんだね?」
「もちろん。そのつもりで銀次郎さんを紹介したんだから」
「ありがとう。何としても、会社を再建してみせるからさ」
「貯金はいつでも引き出せるんで、心配しないでちょうだい」
「それじゃあ、今から馬喰町へ行こう」と、安堵した顔で健太が麻美を促した。
 事務所を出た二人は、近所の駐車場に停めてあったキャラバンに乗り込んで馬喰町へ向か
った。健太の目はフロントグラス越しのはるか彼方を見詰めていた。現金問屋のある浅草橋界
隈の光景を頭に描きながら、はやる心を抑えて車を前進させた。
 そうした健太の意気込みを、助手席の麻美は敏感に感じ取っていた。落ち込んでいた時の
健太とはまるで別人に見える。資金繰りのめどが立ったことによって、彼の眼光は輝き、体の
動きもきびきびとしていた。
「いったん、うちの会社の駐車場に車を停めたらどうかしら。馬喰町はすぐ近くだから」
 車が吾妻橋を渡った時に麻美が助言した。
「それが出来るんだったら、そうさせてもらおうかな」
「休みの日は、いつも二台分のスペースが空いているの」
 麻美の助言に従がった健太は、彼女に道順を聞いて浅草橋の会社に車を到着させた。彼女
の言う通り、会社の駐車場には車を停めるスペースがあった。
「何から何まで世話になっちゃって」と、照れくさそうに言った健太が、MA1のジャンパーを持っ
て車から降りた。
「馬喰町で一番大きい店に行きましょう。亀八の店っていうんだけど、私も服を安くで買ってる
の」
 そう言った麻美が行きつけの現金問屋に健太を導いた。
 店頭の陳列棚には安いニット製品等が山積みになっている。店内を見回して顔見知りの店
員を見つけた麻美は、笑顔で手を振って近寄っていった。
「こんにちは!ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「毎度どうも。なんでしょうか?」
「これと同じジャンパーをたくさん欲しいんですけど、置いてますか?」
 横に並んだ健太から受け取ったジャンパーを、麻美が店員に手渡した。
「MA1ならあそこに置いてあるけれど、何着必要なんです?」
「三百なんですよ」
「ずいぶんたくさんの数なんですね。となると、倉庫から持ってこなきゃ」
「あることは、あるんですね?」
「多分、在庫があると思いますよ」
「1着、いくらなんですか?」
「三千二百円になりますけれど」
「大量に買うわけだから、安くしてもらえないんですかね?」
「安くと言われても、うちだってこれがめいっぱいの値段なんです」と、店員が渋い顔をした。
「それじゃあ、よその店にも聞いてみようか」
 タイミング良く健太が割って入った。
「ちょっと待ってくださいよ。あんまりいじめないで下さいな。それじゃあ、店長と相談してきます
から」と、言って店員が奥の事務室に姿を消した。
「やったね。うまくいきそうだ」
 したり顔になって健太が麻美に耳打ちをした。
「当然じゃない。三百着を現金で買うんだもの」
「確かにそうだよな。麻美ちゃんの言う通りだ」と、健太が納得して頷いた。
 ややあって店員が戻ってきた。
「お待たせしました。それじゃあ、百円だけ引かせてもらって、三千百円ということでどうでしょ
う?」
「それ以上は無理ですよね?」と、麻美が念を押した。
「勘弁してください。それで手を打ってもらえないですかね」
 銀次郎だったら、ちょうど三千円に値引きさせるだろう。そう思った麻美は、迷うことなく携帯
電話を取り出して彼に電話をかけた。
「麻美です。今、馬喰町の店に来てるんです。例のMA1なんですが、三千百円より安くならな
いって言うんです。なんとか店の人と交渉してもらえないですかね」
「分かった。その野郎と代わってくれ」
 銀次郎が快く承諾してくれたので、麻美は携帯を店員に手渡した。
「三千百円なんて、細かいこと言うんじゃねェよ。九十万からの買い物を現金でするんだぜ。悪
いこと言わねェから、三千円ちょうどにしてくれよ。頼むからさ」
「困りましたね。一般のお客さんには、三千二百円で売ってるものなんですよ」
「わかんねェ野郎だな。俺たちゃ一般客じゃねェんだ。あんたとこで買った物をよそに卸すんじ
ゃないか。同じ商売人なんだから、そのくらいのサービスをしてくれたっていいじゃねェか。持ち
つ持たれつって言うだろうが。三千円ちょうどで決まりだ。なっ、それでいいだろう?」
「困りましたね。そうですか。仕方ないですね。それじゃあ、今回だけ特別に、三千円で」
 銀次郎の迫力に圧倒されて店員が渋々承諾した。
「助かります。そしたら三百着を買うことにします」と、悦に入って麻美が言った。
「三百全部が揃うのは夕方になるんです。どうしたらいいでしょうか?」
「そしたら、押上の会社まで届けてもらえますか。住所と電話番号を書いておきますから。お金
はその時でいいんでしょ?」
そう言って健太がメモを店員に手渡した。
「ありがとうございました。できるだけ早く納品しますんで」と、店員が頭を下げて二人を見送っ
た。
「やったじゃないか。二百円違ったら、全部で六万円も違ってくるんだぜ」
「銀次郎さんのお陰で、三千円ちょうどになっちゃった。さすがに銀次郎さんだわね」
「あの人には本当に何から何まで面倒かけちゃったな。いつか必ず恩返しができるように、が
んばらなくっちゃ」 
「そしたら駐車場で待っててよ。お金を引き出してくるから」
 そう言った麻美は一人で浅草橋駅の方に足を進めた。そして銀行のATMで九十万円を引き
出してハンドバッグに詰め込み、それを両手で抱きかかえながら会社の駐車場へ向かった。
「これで準備万端ね。そしたら健太さんの事務所で、MA1が届くのを待つとするか」
 車に乗り込んだ麻美が、満面の笑みを浮かべてそう言った。
「後は、刺繍屋にワッペンを注文すればいいんだな」
「十日あれば作ってくれるって、銀次郎さん言ってたもんね」
「予定通りにいけば、手形の決済日に充分間に合うよ。まだ少し金が足りないけどさ」
「二人で力を合わせれば、絶対なんとかなるって。がんばりましょう!」
 運転を始めた健太の横顔を見て麻美が発破を掛けた。
「考えてみりゃ、本当にいい商売だな。こんな簡単に百万も稼げるんだったらさ。日用雑貨品な
んて、とにかく単価が安すぎるんだよ。一個で百円の儲けがあればいい方だ」
「今回の仕事は特別なんだと思うわ。だけど、確かにバッタ屋って儲かると思う。この前、銀次
郎さんと一緒に縫製屋さんへ行ったんだけど、在庫品をとんでもない安い値段で仕入れてたも
の」
「仕入れ金さえあれば、副業にバッタ屋をやってもいいんだな。もちろん売り先があっての話だ
けどさ」
 麻美は百万円を健太に提供するつもりだった。今回のMA1の仕事で百万円程度の利益が
出れば、合計で二百万円が確保できる。手形の決済のために必要なのは三百万円で、足りな
いのは百万円ということになる。最悪の場合は、クレジット・カードでキャッシングすればいい
と、麻美は考えていた。
 途中のコンビニで弁当とお茶を買った二人は、健太の事務所の机に対座して遅い昼の食事
を始めた。麻美に下駄を預ける形になった健太は、恐縮しながらも少しずつ本来の陽気さを取
り戻して明るく振舞った。
 一方の麻美は、苦境を乗り越えるために夫婦のように一心同体になっていることが、たまら
なくうれしかった。健太のためなら、どんな苦労にも耐えてみせる、と決意を新たにした。
「バッタ屋の仕事をしようと思ったら、銀次郎さんみたいな、ド迫力っていうか、凄みがなけりゃ
駄目なんだろうな」
「値段の交渉の時には、銀次郎さんみたいな強引さが必要なんでしょうね。だけど、やる気にな
ったら誰でもできると思う。なんか、そんな気がしてきたの」
「麻美ちゃんて、意外に男っぽいとこがあるんだな。昔、付き合ってた時は、まったく感じなかっ
たんだけど」
「男っぽいんじゃなくて、それだけ、大人になったんじゃないかしら」
「どっちにしても、俺にとっちゃ心強いよ。麻美ちゃんと再会できて、本当に良かったと思う」と、
健太が心底からの笑顔を見せて言った。
「長い間、ずうっと一人きりだったでしょ。だからエネルギーが有り余ってたんじゃないかな。き
っとそうよ」
「今回のことは、本当に感謝してる。手形の件さえ片付いたら、それなりのお返しと言うか、けじ
めをつけるつもりだ」
「けじめって?」
 健太の言葉の本意を察していながら麻美が問い質した。
「麻美ちゃんがOKしてくれたらの話だ。とにかくその時まで待っててくれ」と、健太が照れて目
をそらした。
「それが本当だったら、楽しみに待ってる」
 麻美も気恥ずかしくなって目を伏せた。

 三時過ぎにMA1を積んだ小型トラックが到着した。一着ずつビニール袋に包まれたジャンパ
ーが、大量に事務所内に運びこまれた。健太が数を確認してから、麻美が九十万円を運転手
に手渡した。
「思ったより、すごい量だな。保管するのが大変だわ」と、ジャンパーだらけになった室内を見
回して健太が苦笑いをした。 
 ちょうどその時、銀次郎からファックスが送られてきた。そこには桐生の刺繍屋の住所が書
いてあった。直後に彼から電話がかかってきたので健太が応対した。
「俺の方から刺繍屋に電話を入れておいたよ。だからワッペンを送れば、すぐに作業に入って
くれることになった。そういうことだから」
「本当にありがとうございます。さっきMA1も全部手に入りましたんで」
「そうかい、そうかい。とにかく段取り通りにやってくれ。なんかトラブルがあったら、必ず電話す
るんだぞ」
「承知しました。わざわざ連絡して頂いて、ありがとうございます」
 何度も頭を下げて健太が電話を切った。
「銀次郎さんが刺繍屋の手配をしてくれたんだ。後はうちが刺繍屋にワッペンを発送するだけ
だよ」
「よかったわね。絶対にうまくいくって!」
「麻美ちゃんと銀次郎さんのお陰で、なんとか命拾いしそうだな。一ヶ月で三百万を用立てるな
んて、絶対に無理だと思ってた。本当に信じられないよ」
 安堵の胸を撫で下ろして、健太が独り言のように言った。
「まだ百万円足りないのか。期限は三週間後ね。とにかく、がんばりましょう」
「もちろん、そのつもりだ。でなきゃ、麻美ちゃんたちの厚意が無駄になるもん」
「なんか、一度に疲れがドッと出ちゃったわ。今日はここまでにして、帰ることにしようっと。本当
にくたびれちゃった」
 そう言った麻美が心地よい表情で背伸びをした。
「俺がだらしないもんだから、麻美ちゃん一人に負担をかけちまった。早く自分の部屋に帰っ
て、一人でのんびりとしてちょうだい」
「いろいろ気になることがあるんで、明日、また電話するわね。それじゃあ!」と、麻美が勢い
良く椅子から立ち上がった。
「地下鉄の駅まで車に乗っていくかい?」
「近いからだいじょうぶ。それより、MA1の整理をしなくっちゃ。手伝ってあげられなくって、ごめ
んなさいね」
 玄関まで見送ってくれた健太に麻美は笑顔でそう言った。そして地下鉄の押上駅に向かって
すがすがしい表情で歩き出した。とにかく成り行き任せの一日であったが、銀次郎に下駄を預
けたことで思いの外うまくいった。
 なによりも健太の喜ぶ顔が印象的だった。地下鉄のシートに座って悦に入った麻美は、今日
の出来事を振り返りながら、幸せな気分でうつらうつらした。抱き合ってキスをする二人の姿が
夢の中に現れた時、麻美はハッと目が覚め、乗換駅の人形町のプラットホームに飛び降りた。


NEXT

NO.5

★銀次郎の仕事振りを見様見真似で覚えた麻美は、健太とバッタ屋の仕事を始める。


トップへ
トップへ
戻る
戻る

恋愛心理テストAIAI無料恋占い ネット副業・副収入・簡単アフィリエイト裏技情報





オリジナル小説「密造」NO.5
オリジナル小説「密造」NO.5
[PR] | 看護師 求人美容整形インプラント消費者金融防犯カメラ洋楽アルバイトならenインプラントSEO対策消費者金融不動産担保ローン時計車 買取ハワイハワイ挙式アスクル転職生命保険テンプレート沖縄旅行動画FX免許合宿二輪引越し消費者金融税理士ゴルフ会員権留学レーシックマッサージ貸し店舗FX投資信託くりっく365アフィリエイト育毛剤FXホームページ制作デイトレードFXホノルルマラソンベスト ハワイ ホテル レーツバリ島ハワイウエディングHawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrヴィラハワイ コンドミニアムバリ島 ホテル
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ.ハワイ ブログ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行
無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - 携帯ホームページ - ブログ - ホテル 予約 - 格安航空券 - 長期滞在 - タイムシェア
[PR] 美容整形外科を選ぶならこちらから。まずは比較してみましょう