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オリジナル小説「密造」NO.5
翌日、浅草橋の会社に出勤した麻美は、朝から生地を買いにくる客たちを相手に仕事をし
ていた。午後四時過ぎ、得意先の亀戸の岩崎縫製の社長がニットの生地を注文にきたので、 試しに麻美が問い掛けた。
「社長のところでも、やっぱり返品とかあるんですか?」
「多いね。特にシーズンの変わり目なんかは、返品の山だよ。なにかと言いがかりをつけてさ、
メーカーが返品してきやがるんだ。アパレル業界ってのは、買い取りじゃないだろう。だから、 返品は仕方がねェんだけどさ」
「そしたら、返品なんかは、どうして処分されるんです?」
「そうだな、安くでバッタ屋に売るしかねェだろうな。なんでまた、そんなことを?」
「いや、ちょっと気になったもんですから」
「まさか、返品が多いんで、倒産でもするんじゃないかと、心配してるんじゃ?」
「違います!大切なお客様に、そんな失礼なことを」
勘違いされたと思った麻美が慌てて弁解した。
「冗談だよ。ちょっと、からかってみただけさ。気にしなさんなって」
五十代前半の社長が、愉快げにそう言って顔を崩した。
「冗談はそのくらいにして、生地の方、頼んだからね」
「承知しました。生地が入り次第、ご連絡させていただきますので」
岩崎縫製の社長を見送った麻美は、テーブルの上の書類を整理しながら腕時計を見やっ
た。五時の終業時刻までは三十分ある。いつものように二階の事務室のコンピュータにデータ ーを入力して時間を潰し、そして逸る心を抑えながら会社を出て行った。
岩崎縫製にも返品の在庫がたくさんあることを知り、麻美の心は揺れ動いた。銀次郎がやっ
た通りにすればいいのだ。在庫を安くで買い取って、それを何処かに卸せば利益が出る。そん な算段をした麻美は、売り先を確保するために現金問屋の亀八の店に足を向けた。
昨日の店員が店内に立っていた。麻美の姿に気付いて「毎度」と声を掛けてきた。
「また何かお探しですか?」
「そうじゃなくて、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「どういうことでしょうか?」
「こちらじゃ、当然、仕入れもされてるんですよね?」
「何か掘り出し物でもあるんですか?」と、店員がざっくばらんに問い返したので、麻美は気が
楽になった。
「知り合いの所にあるんですよ。いくらぐらいだったら、買ってもらえるんでしょうか?」
「いくらって言われても、現物を見てみないことには、なんとも答えようがないですね」と、店員が
苦笑いをした。
「確かにそうですよね。こう言う場合は、どうしたらいいのかな?困っちゃったな」
商売を安易に考えていた麻美は、困惑の表情を見せて独り言を言った。
「それじゃあ、一つだけ教えて差し上げましょう。うちが仕入れる時の最低条件があるんです
ね。それは、原価より安いってことです」と、店員が助け舟を出した。
「原価ってことは?」
「服を完成させるまでに費やしたコストです。生地代、縫製代、付属品、その他の加工代を合
計したものです」
「分かりました。原価より安ければ、買ってもらえるってことですね」
「そうです。何か掘り出し物があったら、気軽に声を掛けてくださいな」と、気さくに言って店員が
笑みを浮かべた。
「お店は何時までやってらっしゃるんですか?」
「八時までです」
「ややこしいこと言っちゃって、済みませんでした。失礼します」
そう言って店を出た麻美は、携帯で健太の事務所に電話をかけた。
「麻美です。緊急の用事があるの。そのまま事務所にいてほしいんだけど」
「分かった。もう仕事は終わったから、ここで待ってるよ」
「浅草橋なんで、すぐに着くと思うわ。それじゃあ」
電話を切った麻美は、近くのATMから二十五万円を引き出してタクシーに乗り込んだ。時刻
は五時半なので、慌てて押上の健太の事務所に向かった。返品になった岩崎縫製の在庫品を 買い取るつもりだったのだ。夕方の車の渋滞にやきもきしながら十五分後に押上に辿り着い た。
「お待ち遠様!」と、言って麻美が事務所の戸を開けた。
「どうしたんだよ?そんなに慌てちゃって」
「今すぐ車で亀戸水神へ行ってほしいの。事情は車の中で話すから」
有無を言わせずに麻美が健太を外へ引っ張り出した。言い成りになった健太は、事務所の
鍵をかけるなり駐車場へ足を進めた。そして事務所の前にキャラバンを止めて麻美を乗せた。
「会社のお客の縫製屋さんが、返品になった在庫をたくさん持っているらしいわ。それを安くで
買い叩いて、昨日の現金問屋に売ろうと思うの。原価より安けりゃ買ってくれるみたいだから」 と、助手席に座った麻美が掻い摘んで説明した。
「なるほどね。それはいい考えだな」
「健太さんにバッタ屋の振りをしてほしいの。そうすれば、岩崎縫製の社長も、銀次郎さんたち
に売る時みたいに安い値段で処分するはずよ」
「きっとバッタ屋に売る時の相場みたいなものがあるんだろうな」
「銀次郎さんは、段ボール箱を五千円で買ってたわ。中に三十着も入ってた」
「と言うことは、1着が二百円弱ってことか」
「安くたって五百円で売れると思うの」
「すると三百円の儲けになるんだな。考えてみりゃ、いい商売だ」
「だから、その気になったのよ。うまくすれば、それなりの利益が出るんじゃないかと思って」と、
厳しい顔付きで麻美が健太の横顔を見やった。
「分かった。バッタ屋になりきって、その縫製屋と交渉してみる」健太が腹を決めて了解した。
「とりあえず、二十五万円だけ引き出してきたから、渡しておくね」
現金の入った封筒を麻美がフロントガラスの所に置いた。
やがて車は亀戸水神の近くの町工場の前に止まった。間口の広い木造平屋建てで、玄関の
ガラスの引き戸に岩崎縫製のプレートが貼り付けてあった。意識的に少し離れた所に車を停 車させた健太は、気を引き締めて岩崎縫製の前に立った。
「失礼します」と、言って麻美が引き戸を開けた。
引き戸の中の事務室には、たくさんの段ボール箱が山積みになっていた。奥の事務机の椅
子に座っていた岩崎縫製の社長が、麻美の顔を認めて仰天した。
「誰かと思ったら、小林さんじゃないの。どうしてこんな所へ?」と、言って玄関の方へ近寄って
きた。
「お忙しいところ、済みません。さっき、社長から返品の在庫がたくさんあるって聞いたもんで、
それを知り合いに話したんです。そしたら、買い取らせてほしいって言うことになったもんです から、その人と一緒に寄せてもらったんです」
恐縮しながらも麻美はてきぱきと用件を伝え、背後の健太の方を振り向いた。
「初めまして。高橋と申します。遅くに申し訳ありません。彼女から岩崎さんの在庫の話を知ら
されて、是非とも紹介してくれと無理を言ったんです。よろしければ、製品を見せていただきた いんですが、どんなものでしょう?」
健太もバッタ屋に成り切って、ビジネスライクな物言いをした。
「そうだったんですか。それじゃあ、とりあえず中へ入って下さい」岩崎社長が二人を促した。
「お邪魔いたします」と、一礼した健太が中へ足を踏み入れたので、麻美もその後に続いた。
「処分したいのはやまやまなんですがね、果たして値段の折り合いがつくかどうか」
そう言って岩崎が山積みになった段ボール箱を下ろし始めた。
「どう言うことなんです?」と、厳しい顔付きで健太が問い質した。
「うちの製品は高級なものばかりなんです。売場に出れば一万円前後の値段がつくんですよ。
原価も二千円程度かかってますからね」
そう言った岩崎が、箱の中から前面にフリルのついた薄紫色のブラウスを取り出した。
他の箱からもVネックの周りにリボン柄のアップリケを施したピンク色のニット製品を取り出し、
健太に手渡した。高級であることは、素人にも察しがつく代物だった。
「いくらだったら売ってもらえるんですか?」と、健太が単刀直入に尋ねた。
「そうさね、七百円は欲しいよね」
「七百円?」
岩崎の言い値を聞いた健太は、意外な高値に絶句して考え込んでしまった。本物のバッタ屋
ではないので、適正な買値が分からない。困惑した健太は、製品を両手で持ちながら助けを求 めるように麻美を横目で見やった。
そんな健太の弱気な視線を受け止めた麻美は、「ちょっと外にいますから」と、言ってさりげな
く外へ出た。そして車の前に立つなり、携帯で銀次郎に電話をかけた。包み隠さずに全てを話 して、彼に助言を求めることにした。
「しかし、麻美ちゃんのど根性には恐れ入ったね。分かった。じゃあさ、今から高橋君の携帯に
電話をかけて、俺が直接指示してやるよ」と、銀次郎が快く承諾してくれた。
急いで麻美が岩崎縫製に戻ると、すぐに健太の携帯の着信音がした。
「はい、高橋ですが」
「渡辺だよ。今しがた麻美ちゃんから電話があって、事情を聞いた。俺の言う通りにするんだ。
まず最初に製品を細かくチェックしろ。ひっくり返して縫製の具合を確かめるんだ。振りをする だけでいいからさ。そしてサイズの内訳を尋ねるんだ。きっとバランスが悪いはずだから。それ から、三百円しか出せないって言うんだ。分かったな」
「分かりました」
要領をつかんだ健太は、電話を切るなり手に持っていたブラウスをひっくり返して、内側の縫
製の具合を調べる振りをした。Vネックのニット製品も同様に裏返して、縫い目に熱い視線を投 げかけた。案の定、強気だった岩崎が態度を急変させ、そわそわとしながら健太の一挙一動 に注目した。
「総数とサイズの内訳を、型別に教えてほしいんですけど。メモに書いてもらえますかね」
落ち着き払った態度で健太が岩崎を促した。
「全部で四百五十あるんですよ。三種類の型で、サイズの内訳はこうなりますね」と、言って岩
崎がメモ用紙を健太に手渡した。
そのメモ用紙を受け取った健太は、熟考の末に決断するように感情を抑えた低い声で口を
開いた。
「三百円でお願いしたいんですが」
「三百円ですか?」と、岩崎が躊躇して腕組をした。
「全部で十三万五千円ですから、十四万円ということで、どうでしょう?それが目一杯ですね」
「仕方ないです。承知しました」
「ありがとうございます!」
銀次郎の助言通りに事を運ばせた健太は、うれしさを押し隠しながら冷めた顔で一礼した。
そして麻美から預かった紙封筒の中から十四万円を取り出して、岩崎に手渡した。
紙幣の枚数を確認した岩崎は、それを作業ズボンの後ろポケットに入れると、さっさと段ボー
ル箱を引き戸の外に運び始めた。外に出た健太も急いで車を玄関前に移動させ、買い取った 段ボール箱を車の後ろに積み込んだ。
「お邪魔しました。それじゃあ、失礼いたします」と、健太が丁寧に言って一礼した。
「お忙しいところ済みませんでした」と、麻美も頭を下げた。
車に乗り込んだ二人は、笑顔でガッツポーズをして手を握り合った。
「やったじゃんか!七百円を三百円に値切ったんだからな。信じられないよ。一時はどうなるか
と思ってさ」
悦に入った顔で健太が車を走らせた。
「銀次郎さんに電話してよかった。また借りをつくっちゃったわ」
「なんたって、本物のバッタ屋さんだもんな」
時刻は七時十分前だったので、健太は急いで車を馬喰町に走らせた。そして十五分で現金
問屋の亀八の店の前に辿り着いた。昼間と違って人通りが少ないので、店頭に車を停めて麻 美が外へ降りた。そして例の店員を捜しに店内へ足を進めた。
「度々済みません。夕方に話してた製品を持ってきたんで、見てください」と、麻美が店員を促し
た。
「ずいぶん、手際がいいんだね。どれどれ」
そう言った店員が、車の後ろに回って箱から製品を取り出した。
「三種類のトップスが合計で四百五十着あるんです。サイズの内訳はこうなってます」と、言って
麻美が岩崎から受け取ったメモ用紙を店員に手渡した。
「悪くないね。いくらだったらいいのかな?」
フリルのついたブラウスを手にした店員が、細部をチェックしながら問い掛けた。
「高いにこしたことはないんですけど、妥当な線でお願いできれば」
「そしたら店長と相談してくるから待っててちょうだい」
三種類のトップスのサンプルとメモ用紙を持って、店員が店の奥に姿を消した。
現金問屋の買い入れ値段の相場が分からないので、麻美も健太も気を揉んだ。
「いくらぐらいになるんだろうな?」と、運転席から降りた健太が腕組をしながら店の奥に目を向
けた。
「絶対、損はしないわよ」
「それは間違いないと思うんだけどさ、どうせなら儲けが多い方がいいもんな」
「あんまり高望みしない方がいいわ」
少し弱気になった麻美がそう言って周辺の景色に目をやった時、奥から店員が戻ってきた。
「お待たせ。検討した結果だけど、八百円でどうだろうね?」
「八百円ですか?」
そう言った麻美が、窺がいを立てるように健太の顔を見た。
「仕方ないですね。じゃあ、それでお願いします」
「モノはいいんだけどさ、普通のサイズがちょっと少なめだから、売りにくいんだよな」と、店員
が健太に説明した。
「分かりました。箱はここに下ろしていいんですか?」
「とりあえず、ここに置いてちょうだい。数を確認したいんで、一緒に奥の部屋へ運んでほしい
んだわ」
「承知しました。それじゃあ、麻美ちゃんは車に乗って待っててくれよ」
そう言った健太が、店員と二人で台車に箱を積んで奥の部屋まで運んでいった。
車の助手席に座った麻美は、満悦の体で健太が戻ってくるのをじっと待った。思ったよりもう
まく事が運んだ。二十二万円を稼いだのだから笑いが止まらない。
十分後に健太が運転席の窓から車内を覗き込んでニッと笑った。そして、現金の入った紙封
筒を麻美に手渡してから運転席に座った。
「どうなってんだ。なんでこんなに簡単にお金が儲かっちゃうの。信じられないよ」
そう言いながら健太が車を発車させた。
「別に悪いことしてるんじゃないんだからさ」と、麻美が自分に言い聞かせるように言って封筒
の中を覗いた。
「これで、例のMA1がうまくいったら、本当に気が楽になるな。麻美ちゃんには、本当に感謝し
てるよ」
「考えてみれば、バッタ屋さんて儲かるのね。たまたま、うまくいっただけなのかもしれないけ
ど」
「これを本業にしたら、それなりの苦労があるんじゃないの」
「私もそう思うんだけどさ。いつもいつも、こんなにうまくいくとは限らないもんね。それより、晩
御飯はどうする?健太さんもまだなんでしょう?」
「金儲けに必死になって、晩飯のことすっかり忘れちゃったよ。麻美ちゃんはどうするつもりな
の?」と、健太が麻美の横顔をちらりと見やった。
「今夜は、思い掛けない臨時収入だったからさ、よければ一緒に食べましょうよ」
そう言って目を伏せた麻美が、照れくさそうにもじもじとした。
「そしたら、こう言うのはどうだろう。コンビニで弁当や飲み物を買って、僕の事務所で食べるん
だ。とにかく、今夜は麻美ちゃんと乾杯がしたいんだよ。何から何まで世話になりっぱなしだし、 感謝の気持ちを込めてお礼の言葉が言いたいんだ」
「お礼の言葉だなんて、なんか恥ずかしくなっちゃうな」
「それじゃあ、今日のバッタ屋の成功を祝って乾杯しよう」
「分かった。そうしましょう」
「そうと決まれば、急いで買い物しなくっちゃな」
隅田川を越えて本所吾妻橋の交差点を通り過ぎると、健太はすっかりご機嫌になって車を運
転した。そして事務所の手前のコンビニの前に車を停車させ、軽い足取りで麻美と一緒に店内 へ足を踏み入れた。
「お金のことは心配しないで。今日の売上で買えばいいから」と、麻美が耳打ちをした。
「そんなことしたら、気が引けて贅沢できなくなっちゃうじゃないか。この分だけは、なんとしても
僕の財布から出すことにする」
「それじゃあ、遠慮なくご馳走になります」
「好きなもの買っていいからね。今夜だけは、僕にもいい格好させてくれ」
買い物籠を手に持った健太が苦笑いをしてそう言った。
そんな健太に甘えるように、麻美はぴったりと彼に寄り添って店内を歩き回った。そして上等
の弁当を二つと、缶ビール二本と、缶チューハイ二本と、サラミチーズを買って店を出た。
事務所に着いたのは七時五十分だった。麻美の帰宅時刻を配慮した健太は、先に弁当を
黙々と食べて、それから缶ビールに手を伸ばした。
「今日のバッタ屋の儲けに乾杯しよう!」と、健太が缶ビールを持ち上げた。
「なんか変な感じがするけど、とにかく乾杯!」
満更でもない様子で麻美も缶ビールを持ち上げた。
「二十二万円の利益に乾杯!」と、健太が調子に乗って戯言を言った。
「なんなのよ。まったく!」
思わず麻美が破顔して喉を詰まらせた。
「いやあ、最高の気分だ。みんな麻美ちゃんのお陰です。本当にありがとう!」と、言って健太
が頭を下げた。
「まだ返済が終わったわけじゃないから、それまで、とにかく二人でがんばりましょう」
「そう言ってもらえば、本当に心強いんだな。ありがとう。どっちが経営者だか、わかりゃあしな
いよ、まったく」
「健太さんに早く立ち直ってほしいだけなの」
そう言って麻美はビールを喉に流し込んだ。喜びが胸にじわっとこみ上げてきた。それと同時
に心地よい疲労感が全身を包み込んでいった。
「なんて言うんだろう。今まで長い間、運とかツキに見放されてたんだ。ところが、麻美ちゃんと
再会してから、まるで運命が変わったみたいになっちゃったもんな」
ビールを一気に飲み干した健太が、缶チューハイの栓を開けてそう言った。
そうした健太の喜ぶ顔を見て麻美は幸福を感じた。ほろ酔い気分になりたくて残りのビール
をぐい飲みした。彼と一心同体でいることが、たまらなくうれしかった。
七年間寂しい思いをしてきた彼女にだって、同じようなことが言える。健太と再会して本当に
良かった、と心底から思った。このところの一連の行動は、自分の幸せためにやっているよう なもので、けっして苦労だとは思っていない。そのことを健太に分かってほしかった。
八時半になったので、二人はつかの間のパーティーをお開きにした。夕方にATMから引き出
した二十五万円を返金してもらった麻美は、事務所の前で健太と別れた。そして押上の駅まで 小走りで歩いた。なんとしても九時半には中目黒のマンションに帰りたかった。自分の部屋に 戻ったら、一人で今日の出来事を振り返り、しみじみと喜びをかみ締めたかった。
地下鉄のシートに座った麻美は、おおざっぱに金勘定をした。銀次郎から頼まれた米空軍の
スカイパイロットのジャンパーが出来上がれば、約百万円の収入になる。それに麻美が用立て る百万円と今日の二十二万円の収入を足せば、約二百二十万円の準備金ができたことにな る。残りは八十万円ということだ。期限までは三週間もあるので、きっと何とかなるだろうと、麻 美は高を括った。
★突如として銀次郎が行方不明になったので、麻美たちは困惑して右往左往する。
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