欧州で行われたW杯で不振だったナショナルチームが
4年後の自国開催で名誉を挽回する。
大多数の日本人が思い浮かべているであろう
このストーリーは22年前にタンゴの国で実現された。
それまで『アニマル』とまで酷評された彼等のプレイスタイルは
「テクニック、インテリジェンス、コラヘ(勇気)」によって
斬新且つクリーンな物へと変貌していった。
70年大会は予選落ち、74年大会はオランダとポーランドの引き立て役。
今でこそブラジル・イタリア・ドイツと並び称される
フットボール大国の地位を築いているアルゼンチンも
自国でW杯を開くまでは『その他大勢の中堅国』に過ぎなかった。
その理由として上げられるのが彼等の異常なまでの勝負の執着心であった。
激しく、狡賢く、しぶとく、逞しい。
クラブレベルにおいてはリベルタドーレス杯を勝ち取る要素となっても、
(リベルタドーレス杯とは南米クラブ世界一を決める大会。
先日トヨタカップを制したボカ・ジュニア−ズは昨年度のチャンピオン)
冷徹な精神力が何よりも要求されるW杯では逆に足枷となり、
66年大会の対イングランド戦に象徴される様な
『自爆』をしばしば引き起こしていた。
(この悪しき伝統は今でも見受けられるが)
そんな自国の相次ぐ失態は南米随一のプライドの高さを誇る
国民には耐え難い事だった。
そこで彼等はクリーンな高い個人技に基づく攻撃フットボールを志向する
セサル・ルイス・メノッティにナショナルチームの再建を託した。
彼は期待に応えるべく、それまでの実績や名声を無視して
技術と知性に溢れた国内のクラブチームに所属する若手で
ナショナルチームを再編した。
キャプテンに任命したのは25歳(78年当時)のダニエル・パサレラ。
中盤の指揮官には同じく25歳(同)のオスバルト・アルディレス。
そして前線には23歳(同)のマリオ・ケンペス。
フレッシュな人材で固めた新生アルゼンチン代表は
綿密な強化プログラムの元で海外遠征を繰り返し、
万全の体勢で自国の名誉を賭けた大会に臨む・・・・筈だった。
しかしピッチの外では彼等が6番目のW杯優勝国に
相応しいかどうかを試すが如く、次々と問題が勃発する。
彼等を苦しめたのは自国政府の対外イメージの悪さだった。
当時アルゼンチンを含めた南米各国は軍事政権の支配下に置かれていたが、
特にタンゴの国の場合は『左翼弾圧』を名目とした圧政と虐殺が
欧州各国の忌避を買って一部にはボイコットの動きさえ存在した。
さらに弱体と見なさけていた守備陣の強化の為に自分の方針を変更してまで
召集した人材は諸般の事情によって登録メンバーに加える事が出来なかった。
(メノッティはメンバーを自国所属のプレイヤーで固めていた)
こうした事情が当時17歳だったマラドーナの代表落ちへと繋がったのだが、
(経験不足の選手を入れられる状況ではなかった)
これが彼の人生に大きな影響を与えるとは誰も想像出来なかっただろう。
未来のスーパースターの波乱万丈過ぎる人生はさておき、
一連のドタバタ騒動の悪影響は一次リーグの戦い振りにしっかりと表れた。
『マジックマジャール』の栄光今何処のハンガリー、
若きプラティニが主力の3大会振り出場のフランス、
共に怪し過ぎる判定に助けられてどうにか勝利したものの、
珍しく予選から好調のイタリアに0−1で敗戦、地方落ちを余儀なくされる。
だがこの苦難の時期をどうにか乗り越えたアルゼンチンに対して
フットボールの神はようやく『合格通知』を出す気になったらしい。
前回大会でスコア以上の完敗を喫したポーランドに
しっかり2−0で勝利すると宿敵ブラジルにはスコアレスドロー。
そして4点差以上の勝利が必要となったペルー戦では
二列目に移動して持ち味のスピードとドリブルを存分に活かした
ケンペスの活躍で6−0の圧勝。
4年前は手も足も出ない0−4の完敗を喫したオランダが待つ
ブエノスアイレスへの帰還を果す。
決勝戦は全体的に低調だった今大会を良い意味で裏切る熱戦となった。
前半にアルゼンチンが二列目から侵入したケンペスによって先制すると、
2大会連続でアウェーでのファイナルを戦うオランダも
試合終了9分前にパワープレーで追いついた。
だがフットボールの神はより良い試合内容を見せる方を祝福する気だったらしい。
クライフ不在の凡庸なチームにあって孤軍奮闘していた
レンセンブリンクが迎えた後半ロスタイムの大会得点王と
オランダ優勝の絶好機を阻止、史上3度目の延長戦へと突入させた。
延長戦は紙吹雪の舞うホームの熱狂振りに後押しされた
ケンペスの強引なドリブルと粘りと情熱と
『プレッシング』に風穴を開ける直線的なドリブルが得点と言う形で
結実したアルゼンチンが2点を加えて(当時はゴールデンゴールはなかった)
半ば義務とされていた優勝を果す。
この大団円的の結末は守備的且つ退嬰化の傾向を見せていた
フットボールの危機を食い止める役割を果し、
華麗な才能が煌く次世代達に才能を十全に発揮する機会を与えた。
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