『第一幕開演』


両陣営とも物見同士の小競り合いが報告されたのは
初夏の鮮やかな夕焼けが自己主張を発している頃であり、
この点で双方の情報伝達に差はない。
だが勝敗を別けたのは首脳の決断の差異である。
「今日は捨て置け。明日になれば羽戸川殿の同勢も到着する。
 これより半里下がった位置で陣を堅牢にして襲撃に備えよ」
安堂家当主・太郎信基は汗に塗れた身体を休めたい一心で野営を命ずる。

一方、元胥吏の方はと言えば「夜討ちになるな」と
黒一天第二公用語の抑揚で呟くと一番頭に三番への急行を命ずる。
「平左には駆け足で権八んとこの手伝いをせえと言っとけ。
 それと弥四郎にゃ物見を油断なく蒔いとけと言うとく様に」
自らが設定した暗号を使用せずに自らの意志を表明した
黒一天軍団長に対して筆頭参軍使は露骨に顔を歪める。
「ああ、黄色の二番と緑の六番やったな」
配下のご機嫌取りではなく、意志統一を図る観点から前言を訂正する。
「今後、お間違い無き様に」
この無礼な言い草は修一郎の眼にに鋭い眼光を帯びさせた。

「!」
近侍して以来、始めて見る眼光と怒りの感情に豊五は怯えた。
何と言っても彼は雇われの身であり、
修一郎の意向次第ではどうなるか判らない身上でもある。
「・・・黒一天は玄武やないからな」
荒れ狂う感情を押し殺す様な低い声とさざなみ一つ立たない
容貌の不調和振りは却って参軍使を振るえ上がらせる。
「御無礼の程、平に御容赦を」
いつもの尊大な物言いをかなぐり捨てての豊五の謝罪を
修一郎は無言の頷きで受け入れる。
「あと半刻程か」
権八の丸太の如き上腕で鍛えられた三番ならば
最新報告の一里程度の距離なら射程圏内であった。

鯨波の様な時の声と勇壮な太鼓が黒一天三番の戦闘意欲をたぎらせ、
同時に野営準備中で武器を外していた安堂勢を萎縮させる。
「落ち着け、所詮は小勢ぞ」
辺境とは言え、それなりに場を踏んできた当主の分析は間違っていない。
だが温い一騎撃ちを繰り返した信基には集団戦の流れは
群集心理次第である事を理解していなかった。


握り手に装飾を施した細剣を持つ騎士達が誇りを捨て数名がかりで
馬上から殺戮の暴風雨を巻き起こす三番頭に襲いかかる。
「番頭殿!」
隣で長槍を振るう光太郎が悲鳴を上げるがそれは杞憂に過ぎない。
権八の戦闘力と愛用の六角棒は鍛冶技術の未熟振りを立証するかの様に
一振りで数本を叩き割ってしまう。
先刻、修一郎が豊五に見せた冷たい怒りとは違って
体内の闘志を剥き出しにした荒れ狂う瞳は無謀な攻撃を仕掛けた
連中を次の標的に定める。
丸太の様な逞しく、筋肉の美しさを示している右腕は
眼にも止まらぬ速度で六角棒を振り払い、
敵対者達の頭部に直撃させる事で彼等の戦意と意識を喪失させる。
さらに武神の如き迫力に恐怖した従者達の鳩尾に立て続けに突きを食らわす。

「光太郎!信基は捕捉できたか!」
三番頭は玄武の徴兵に応じる前の鉱山夫であった頃は
顔を仰ぎ見る事も許されなかった貴人の諱を呼び捨てに叫ぶ。
「未だ、捕えられず!」
襲撃と同時に放った炎に当てられた副官は大声で事実を返答する。
「うむ。引き続き探し出せ。
 一番の連中に美味しい所どりされては堪らんからのぅ」
権八は勝ち戦の余裕が醸し出す迫力ある笑みを浮かべる。
「此度の平左どんは御家再興に燃え上がっておる。
 放っとけば首を取り兼ねんぞ」
黒一天では個人的武勇を誇る首取りは禁止されているが、
士大夫の気風を持つ一番頭はやってのけるかも知れない。

「この場にて只忠勤に励むべし。それこそが軍団長の意向であるぞ!!」
黒一天の鉄則を再確認するべく、
一番頭が巨体に相応しい大声で戦場全体の空気を圧する。
「応!!」
平素の努力が表れた事と夕闇を焦がす紅蓮の炎で気が昂ぶっている
配下達が負けず劣らずの大声で応じる。
そんな黒一天三番の様子に撤退を始めつつある安堂の手勢に
絶望感を味合わせたのは軽快な機動力を活かした
黒一天一番の到来を告げる笛だった。


「ふむ、まだ獲物は逃げていない様だな」
足の遅い足軽と鉄砲放ちを三番の援護に回して、
騎馬武者だけで後方へ回り込ませた
一番頭の目には『絶望』の淵まで追い詰められながらも
どうにか『劣勢』で踏み止まっている
双竜の軍旗がはためく様が映し出されている。
「さっさと逃げれば良い者を」
恐らくは『武門の意地』とか言う奴なのだろうが
それだけでは異形の軍隊である黒一天には勝てない。
「では真打ちの晴れ舞台へと上がろうか」
馬上槍を取り出した平左は気心の知れ渡っている配下達に告げる。
「戦働きは首の数ではなく、倒した兵の数ぞ!!」
必要以上の闘志は却って番頭の自覚を促している様である。
「はっ!!」
子飼いの配下達は自分達よりも番頭への自制を促す意味で大声で応じた。

修一郎の性格を反映して鎧を着込む風習がいないのは
黒一天の一大特徴であるがその影響は騎馬武者達にも及んでいる。
玄武の頃はまだ胸当だけは着用していたのだが、
この戦いからは細い鉄鎖で編んだ鎖帷子をのみを着込んで戦場に臨んでいる。
「貧乏武者共に臆するでないぞ!」
その様子を資金不足に拠るものだと勘違いした
安堂家当主が必死の防戦に努める配下達を激励する。
「応!」
あの様な騎士の誇りを捨て去った者共には負けられぬ。
安堂勢の士気が盛り返した様である。

だが盛りあがった士気は一時的だった。
二番所属の『伍』同様に五人一組の集団で襲いかかる。
軽装騎兵の前に重装備の騎士達は次々と討ち取られていく様は
安堂勢の士気を見る見るまに下げていく。
「卑怯なり!」
複数で囲まれた騎士は敗後から馬上槍で突き落とされて、
討ち取られる寸前に一対一の礼儀を守らぬ敵対者に叫ぶ。
「いつか、来世で」
聞きなれた罵声に冷たい瞳も太い眉も微動だにせず、
平左は落馬した騎士の喉元に鋭い穂先を突き刺す。
「来世が・・・・・もっとましな世界になっていればな」
その呟きだけが士大夫としての未練を表していた。


「信基は逃したか」
鉄砲の威力を最大限に発揮出来る陣地を敷いた二番頭に
一番と三番の共同戦果が届いたのは酉の刻(午後八時)を過ぎた辺りだった。
「平左どんらしき手際だわさ」
得意の騎馬戦術を活かすのみならず、
足軽と鉄砲放ちとの拍子を踏まえた挟撃を仕掛けるとは
やはり一番頭の戦術手腕は並みではあるまい。
「我が番は引き続き待機せよ、との事でございまする」
報告を取り次いだまだ十代の若者が捕捉する。

「平左どん。全うに仕事をしたみたいだわ」
満足そうに二番頭は頷く。
「どう言う事でございましょう」
この会戦が初陣である少年が緊張を隠せない面構えで尋ねる。
「お主は黒一天が首取り厳禁なのは知っておろう」
「は、はい」
「あれは軍団長殿が士大夫や騎士の首に値打ちを認めておられぬ故で、
 平左どんは当初、猛反発しておった」
「ぼ、僕も・・・いや小生にもその趣旨が良く判りませぬ」
騎馬の心得のある者は一番、筋骨逞しい者は三番、
そして射撃の素養と先入観に囚われない年少者は
二番に振り分けられるのがこの時期の黒一天である。

「首を取るのは時間が掛かる上に、重量が嵩張る。
 それが却って戦場での落命に繋がりかねん。
 ましてや黒一天は鉄砲放ちを集めた集団射撃が真打ち故に
 わざわざ首など取る必要がない。そう言う事だわさ」
「されど、士大夫様なり騎士様には相応の名声な武名と言う物が・・・」
「勝次。黒一天は戦場で勝つ為が『軍隊』であって
 虚名を追い求める『軍勢』ではないだわさ」
出会った頃の平左の青臭さを連想させる少年に二番頭は諭す様に応える。
「は・・はい。失礼しました」
自分が近侍の分を超えた事を自覚した勝次は赤面して肥満感に詫びる。
「構わぬだわさ。関心在りし事は遠慮なく尋ねるが良かろうだわさ」
特に説明を受けた訳ではないが、
弥四郎は戦闘指揮官以外の役割を何時の間にやら理解していた。


 

「中休み」へ進む。

「会戦前」に戻る。

黒一天へ戻る。

トップページへ戻る

あなたの悩み解決します あなたの悩み解決します そろそろ結婚適齢期???
[PR] | 自動車保険監視カメラ消費者金融スピリチュアル八王子調布三郷久喜中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - レピュテーション・マネジメント・ツール - ハワイ ブログ - Timesell - 国際通話 - ホノルルマラソン - サイト監視 - 風評被害 - ホテル比較 - Delta - ホテル予約