『第二幕の後に』


『安久知戦役』の第二幕の概要が洋駿に伝えられたのは、
事が勃発した二日後に到着した公私三通の報告状によってだった。

「本日卯の刻半(午前七時)、萌黄揚羽(羽戸川の家紋)と
 朱闘犬(長瀬の家紋)が合勢は二番が陣に早朝の挨拶に参上。
 本陣と二番頭は鉄砲玉を持って馳走。
 彼方、無策にて勇敢なるも愚劣な平攻め(強行)繰り返して
 徒に死傷者を増やす。
 かかる惨劇は一番頭が騎馬武者組の横撃に拠って落着。
 引き続き両勢並びに安堂が本拠地に追い討ちを勘考すれば、
 追って諸物資の発注を考慮す。構えて油断なき事候。
 宗洋暦六四六年 六月二日 黒一天軍団長 本間龍長(花押)」

「まずは勝利か」
通常は最上位者が行う後方運営を任されている補佐役は
嬉しさと言うよりも追加の命令の内容を気にする風である。
「恵有様の御苦労も尽きませんな」
大零山の時よりは仕分の熟練度の上がった配下達の御陰で
一時ならば軽口を叩ける程度の余裕がある平九郎が相手を務める。
「まぁ、野戦の勝利自体は利益が皆無だからの」
確かに自前の『荘園』から徴発した農奴達を引き連れて
虚名とも言うべき個人の武勲録を書き加えるだけの騎士達と違い、
きちんとした給金を支払われる専業の軍隊を率いる
黒一天は実利を確保せねばならない。

「どれだけ取りこぼしを抑えるかが肝要だな」
第一幕を含めた野戦の勝利に拠って
樹州で黒一天に対抗出来る勢力は消滅したと言って良い。
だが『反抗しない』とは『全面服従』を意味する訳ではなく、
何時の世も『面従腹背』を裏家訓とする輩は存在する。
「とりあえずは太田と言う所でございましょう」
平九郎は此度の戦役で密かに安堂に兵糧と夫丸人足を貸し出していた
小豪族の名前を挙げる。
「知事様も同様の事を申されていた。『絞めろ』とな」
暴力の攻防に拠る勝利を持って知力の攻防に拠る優位を確保するのは
僧形の補佐役の好む所ではないが、
一年にも満たない急拵えの組織ではやむを得ない所である。


『樹州一代記』『西管家公文書一覧』等に掲載される
堅苦しい文語体が知事公舎の次なる行動指針と変貌した頃、
平易な口語体の書状は洋駿随一大店の店主に届けられていた。
「爽やかと言うより汗ばむ気候での取り合いは中々難儀であった。
 熟練の銃士達と違って、未熟者の鉄砲放ち達は季節の湿気を考慮した
 早合(紙薬莢)の割合と感覚を弁えない故に鉄棒を持った遊兵と化し
 『伍』の連中への後押しが不足、彼等には多大な迷惑をかけた。
 率直に言って『敗北』と言う文字が陣頭指揮の最中に思い浮かんだが、
 右翼の火力不足は遠駆けした一番の騎馬武者によって救われた」
当時、我々の世界で言う所の中間管理職に位置した
修一郎は新妻に対してのみ自らの心情を書き綴る。

「此度の野戦の勝ちで一応、樹州は我が手に入った様でもある。
 しかし黒一天は見目麗しき騎士達が美女と名誉を手に入れて
 『めでたしめでたし』で話が終わる古典物語の住人ではない。
 実利を追求せねば明日のない我々はここからが正念場である」
恵有宛ての文書と同日付の文書は黒一天軍団長が
野戦の勝利に浮かれていない様が見て取れる。
「次の戦場は安堂か羽戸川のどちらかの本拠地となるが、
 (この地点ではまだ決断していなかったらしい)
 何れにせよ、珍客(長瀬)に南海の縄張りにお帰り願うには
 黒一天の武力と言う名の粗茶ではなく、
 黄海社中の交渉力と紅屋の財力が程好く混ざった濃茶であろう」
他の幹部にさえ明かさない自らの手立てをこうも明らかにするとは
それだけ修一郎が雪香を深く信用していたのだろう。

そして独身時代の事実と要望のみを書き連ねた頃は違って
少しは雪香を思いやる心情が野暮天には生まれていたらしい。
「残念ながら貴女の手料理を口に出来るのはもうしばらく先である。
 舌が肥えた故に濃い味付けの乾飯や干し肉を食さねばならないのは
 少々げんなりするが、何れは繊細な味付けを施した料理が並ぶ
 食卓にて知名・久喜のみやげ話を披露したいものである」

末尾の一文が女主人の端正な顔立ちをにやけさせ、
終日、気持ちを上の空にさせたのは紛れもない事実である。


一般に大商人は店舗で大所高所から指揮を取り、
我々の世界で言う所のベンチャー商人は現地まで出向いて
危険を伴う商談に挑むものである。
無論、宗洋島の世界にもこの法則は当て嵌まり
長髪を後ろで纏めた男が率いる黄海社中は現在は敵対している陣営に
ある『商談』を持ち掛けるべく、潮騒の吹く黄海へと乗り出していた。

「長瀬の衆はどこにおるかのぉー」
内海用の帆船に乗り込んだ和馬は仕来りに応じた信号を発信しつつ、
大声で商売敵と提携先を兼ねる海の民に呼び掛ける。
「親方ぁー。別にこっちから叫ばんでも
 すぐに向こうから小早船がきますぜ」
「そりゃわかっちょるが、早く話を纏めてし仕舞わんとのぉ
 取り分も少なくなるきに」
「米でしたら既に前渡しで百石分、貰っとりますがぁ」
「おんしゃあ、何で儂が黄白でなくて米での支払いを望んだか
 わかっちょらんみたいじゃのぉ」
「余った兵糧米を高く売りつけるんじゃなかですか」
収穫を目前に控えた時期に市場に出回る米が減り、
当然ながら米の値段が上がる。
幸太のごく普通の見解にはしかし和馬に苦笑を浮かべさせた。

「半分はそれじゃが、もう半分は商圏の拡大よ。
 考えてみぃ、儂等の顧客は何処じゃあ」
「糞ったれな士大夫以外の河南と関中の民です」
「そうじゃ。じゃが河南や関中だけの商いだけじゃと
 取り扱う品も決まってきて旨味が無くのうて来よる」
「ほじゃけど、南海の連中は取り立て珍妙な品も作らんし
 『宵越しの金は持たん』っちゅう気風持ち達が
 金銭を溜め込んでいるとは思いませんがのぉ」
各地の方言と抑揚が混ざるのはそれだけ各地に出向いている証でもある。
「儂はあいつ等からは銭は取らん。
 欲しいのはあの航海術と顔の広さよ」

ここで彼等の聴覚を独特の高音が刺激する。
始めて聞く音ではない。
特殊な技巧を凝らした笛の音は長瀬衆の登場を告げる笛だった。


「久しいのぉ和馬よ」
筋骨逞しい四十代半ばのその男は力強く黄海社中頭領の広い肩を叩く。
角張って髭が一面を覆っている容貌と浅黒く日焼けした様は
世間の評判通りの『海賊』を連想させる。
「おんしも無事息災で何よりじゃあ」
力の入りすぎた親愛の情に報いんと和馬も力を込めて肩を叩く。

「近頃、ぬしゃ黒一天の飼い犬に成り下がったと聞くが、
 今日は儂等に何用じゃ」
笑顔の眼は笑っていない。
確かにこの状況での来訪はどう考えても調略、
はっきり言えば羽戸川から黒一天への寝返り工作以外考えられない。
実際、修一郎も手紙でそう依頼していたが
和馬は唯々諾々とその指示に従うつもりはない。
世間の眼はともかく、彼は黒一天の飼い犬になった覚えはない。
「何を勘違いしちょう。
 儂等は奴等とは仕事の提携しちょるだけで立場は互角だぜよ」
「しかし、三日前はぬし達の主人と儂等の手勢が一戦に及んだがの」
「長瀬の衆は一度の取り合いを未来永劫根に持つ御仁かの」
「いんや。それならならぬし達との間柄も未だに険悪な筈じゃ。
 此度は羽戸川との長年の友誼に応えただけじゃ」
建前を吐くのは本音を吐かせる論法を期待する表れである。

「友誼と申しても利に基づいた間柄じゃろうが」
「いかにも。じゃが付き合いが長くなれば情も移るわい。
 少なくとも一面識のない連中よりかはの」
「ならこれから面識を得ればどうじゃ」
「されど昨日の友を今日の敵とする無節操振りは長瀬の好む所でないわ」
嘗ては戦の真っ只中に旗印を変更した実績もあるのだが、
この際は触れない方が賢明だろう。
何故なら相手は条件闘争を仕掛けているのだから。

「・・・・・兵糧米は足りとるかの」
「・・・・・黒一天印を食らう程には不足しとらんが多いに越した事はない」
「ならば儂等黄海社中を通じて買わんかの。
 但し、今は持ち合わせておらんきに、ちと搬入に時間が掛かるがの」
「値の方はどうかの。この時節は高くつくからの」
「勿論『経世救民』の旗印通りのこの値段じゃ」
三本指を突き出した模様を写す瞳に拒絶の色彩は見当たらなかった。


 

「掃討戦・前半」へ進む。

「中休み」に戻る。

黒一天へ戻る。

トップページへ戻る

独自ドメインの取得をするなら 給料前でお金がない・・ あなたの悩み解決します
[PR] | 自動車保険監視カメラ消費者金融スピリチュアル八王子調布三郷久喜中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - レピュテーション・マネジメント・ツール - ハワイ ブログ - Timesell - 国際通話 - ホノルルマラソン - サイト監視 - 風評被害 - ホテル比較 - Delta - ホテル予約