近年、日本においてもサッカーブームの高まりと愛好者の拡大は
同時に彼等を当て込んだ衛星放送・雑誌・グッズ・インターネット等の
様々な分野での著しい拡大にも繋がっているが
その一つに『評論家』と言うカテゴリーが存在する。
キャラクターだけで稼げる野球(ベースボールではない)とは違い、
『本物志向』の強い『サッカー』においてはいい加減な評論など
インターネット上で馬鹿にされるだけである。
今回紹介するのはそんな厳しい観察眼に耐え抜いている
『本物』と言って差し支えない人物が欧州の第一線に立つ各クラブを歴訪した記録の書である。
著者の後藤武生にはサッカー選手としての経験がなく、
文字通り自らの観察眼と文章能力のみで
現在の『売れっ子』としての評価と地位を固めた。
彼の評論で特徴的なのは『ピッチの外』での論評の鋭さだろう。
別に試合分析が下手と言う訳ではないのだが、
残念ながら実際にピッチに立った人物に比べると
上っ面だけ、或いは技術論に終始している感は否めない。
だがそれ故に『経験者』に比べると視野が広く、
特に背景の事情に関する考察は少なくとも日本で活躍する
評論家の中では他に追随を許さない。
彼が関心を持ったのは所謂『ボスマンルール』と呼ばれる
移籍市場の活性化によって激変した欧州の各クラブの様子だった。
パルマやラツィオの様に上手に使いこなすクラブもあれば
インテルの様にバランスの悪い補強に走るクラブもある。
はたまた資金力で対抗できない分、知恵を使って
金持ちクラブに五分以上に渡り合うバレンシア、サンダーランドの
『成功物語』を地で行くクラブもあれば
賭けに失敗して滅亡の危機に瀕するクラブもある。
58日間・21の都市・12のクラブ・59人への
インタビューからなる著書の中身は
最近衰退の傾向が見え隠れしつつあるイタリア、
育成センターの成果が出始めているフランス、
そしてフットボールの母国であるイングランドの
3ヶ国を通じて『欧州現代事情』の様子を描写している。
『世界最高リーグ』の看板を掲げる(最近やや塗装が剥げつつあるが)
イタリア・セリエAでは保守的なお国柄が
グッズ販売に代表される『サイドビジネス』の発展を阻害して
高額な『放映権料』の維持に躍起になっている。
その為ラツィオやインテルの様にすぐに結果が期待できる
有力(高額)選手に頼る傾向が強く、
結果としてカルチョの質が落ちていると著者は指摘している。
同時に経済的に苦しい南部での新しい動きに注目して
『ここからイタリアの再生が始まるのでは』とのメッセージも発している。
その一方で国を上げての20年来の地味な努力が身を結び、
W杯・欧州選手権の双方を制したフランスの章では
70年代の成功と光とその後の長期低迷の影の両面を持つ
サンテティエンヌをメインに取り上げつつ
育成システムに定評のあるオーゼールや
目先の強化に走って失墜したマルセイユの様子も合わせて紹介、
そして育成システムの成果の象徴である選手達が
高い税率を嫌って国外へ流出している現状が
皮肉にも育成システムの維持・発展に繋がっている事を指摘、
イタリアとは逆のケースを示す事でクラブの強化と選手の強化が
必ずしもイコールではない事を示している。
最後の『母国』の章では急速に頭角を現しつつある
ヨーロッパ大陸同様の商業化路線で成功を収めた
名の知れたマンチェスター・ユナイテッドやアーセナルではなく、
サンダーランドを軸に伝統を守ろうとする気概と
時代の波に適合していこうとする様子を描写している。
同時にその波に乗れずに滅亡の危機に瀕している
シェフィールドの2つのクラブを紹介する事で
必ずしも全てのクラブが『ボスマンルール』を
使いこなせていない現状も紹介している。
総じて言えばこの本にはほとばしる様にな情熱ではなく、
冷静な視点でフットボールの楽しみを味合う趣がある。
『選手や試合だけに興味がある』人には薦められないが
より深く背景を楽しみたい人には一読を薦めたい。
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