『回り出す歯車』

 


宗洋暦六四五年九月十五日
西管家・姫島で行われた五奉行会議は長年の伝統を受け継ぎ、
友好も親愛の情もない殺伐とした雰囲気の中で行われた。

「貴殿達は逆賊共がのさばるのも看過す所存か?」
関中に諸々の利益を持つ啓陽衆を代表して戦奉行が声を荒げる。
「我等園章衆とて御館様の御意に逆らうつもりは毛頭ござらん。
 只、いま少し足元を見るべきじゃと言うてるだけじゃ」
先々代に暁徳自治領との確執から西管家に与した丸崎奉行が、
自分達に取って無益な出兵はごめんじゃと暗喩している。

「蘭督衆は如何かの」
煮ても焼いても食えなさそうな勘定奉行は内部分裂を避けるべく、
融通の利かなそうな公事奉行に話を向ける。
「賛成も反対もござらん。我等は御館様の御意を体する事のみ考えておる」
「では貴殿は此度の遠征に賛成なのか」
神経質そうな普請奉行が西管家第三の武力集団の存念を確かめる。
「御館様こそを本義とすべきであろう」
「貴殿は御館様の名前を出せばそれで済むとの存念か」
常日頃から暁徳と水面下での暗闘を繰り返す丸崎奉行が
自分達に不利な状況となる河南遠征決定への流れに苛立ち、
旗本の特権意識を剥き出しにする公事奉行に食って掛かる。

「まあ落ち着かれよ。丸崎奉行の苦労はここにいる皆がよう知っておる。
 誰が行くにせよ園章衆の負担は少なく取り計らう所存じゃ」
苦しい西管家の財政を支える勘定奉行は人口密度と諸産業の生産力の高い
丸崎地方の離脱を押さえるべく、手心を加える事を宣言した。
「ふむ」丸崎奉行は不承不承な様子だったが、
彼等自身も西管家から支援してもらっている立場上、無茶は言えない。

「貴殿達は事の軽重を誤まってはおらぬか。
 我等は御館様の正義をこの世に示す事こそが奉公ぞ」
形勢不利となった戦奉行が主君の名前を出して形勢の回復を狙う。
「御館様の威光に泥を塗った御仁の台詞とは思えぬな」
姫島の治安を司る公事奉行が敗戦を喫して、
又も浮浪者と不逞浪人を増やした啓陽衆を非難する。
「和紙人形共にその様な口を叩かれる覚えはないわ」
「何っ!!」激昂した蘭督衆の長が立ち上がる。
「やめぬか!両者共大人気無いぞ」普請奉行が叱責する。
これが五奉行会議のありふれた光景だった。


不毛な会議は昼食を挟んだ午後も続けられた。
今度の議題は『誰が河南まで出張るか』であった。

「東管家との戦は啓陽衆の宰領であろう」
公事奉行が戦奉行に午前の再戦を仕掛けてきた。
「我等は姫島の不始末を尻拭いする謂れはない」
裏の事情を知っているブルドッグは冷笑を浮かべながら応じた。
蘭督衆から提出された河南出兵の骨子は
表向き『東管家成敗の陽動作戦』となっているが、
真の目的は巷に溢れる不満分子を辺境に放りこむ事なのである。
「東管家との戦は啓陽衆が一切を請け負うが、
 姫島の塵掃除まで押し付けられる謂れはない」
「む・・・」公事奉行は意見に詰まった。
事実彼の職務である姫島の治安と行政は日を追う事に悪化して、
昨今では管領自身が『避暑』だの『避寒』だのと称して
自らの本拠地に戻らないのである。

「御館様の御心を鎮める為には」
この件で利害が一致する勘定奉行が助け船を出した。
「新たなる所領を得て、あ奴等を送りこむしかあるまい」
「それは良き案じゃ」
浮浪人対策の費用捻出の為に割を食っている
普請奉行が手を叩いて賛意を示した。
「だが誰を出す。率直に申してその様な汚れ役に
 手を挙げる物好きな軍旗持ち騎士等おらんと思うがの」
午前中の会議で部外者となりつつある丸崎奉行が
片眼鏡を拭きながらもっともな疑問を呈した。
「所詮は捨て石だから、下賎の者でも良かろう」
勘定奉行は意味有り気な笑みを洩らした。

「下賎の者・・・・・?」
「ほれ、あの鳥脅し殿の事じゃよ」
「待たれよ。いくら捨て石とは言え、あの様な郷士風情に
 軍旗の名誉など与えれば、御館様の御威光に傷がつくぞ!」
因縁浅からぬ公事奉行が腰を浮かして抗議する。
「御館様の威光は関中で輝かせればそれで良い。
 それにあの鳥脅しは和紙人形よりは使える男じゃ」
戦奉行は蘭督衆が『玄武隊』との乱闘に敗れた事実を持ち出して賛意を現す。
勿論、自らの懐が痛まない丸崎奉行や普請奉行も否は無い。

こうして、彼等は自らの首を締める決定を下した。


後世、史書に『宗洋近代化の歯車がまわり始めた日』と特筆される
五奉行会議から三日後、関西管領である仙波忠三郎雅恒は
伊州遠征に功績のあった玄武校尉・本間修一郎龍長を主殿に呼び付けていた。

「近う、近う」
隙の無い衣冠に身を包み、お歯黒をたっぷり塗り付けた
貴人が三段重ねの畳の上から肩衣姿の修一郎が手で招き寄せる。
それに対して恐縮している様子を演技している
修一郎が拳一つ位の距離だけ進み、再び平伏する。
それに対して「もそっと近う」と再び関西管領が手招きする。
この様な空虚な礼儀作法を延々と四半刻(30分)程延々と繰り返し、
ようやく顔が確認出来る距離まで接近してきた。
−なんちゅう馬鹿馬鹿しい礼儀作法や−
内心で腐りながらも、それを口に出せる立場ではない。
「龍長、此度の奉公は見事であった」
「見目麗しき男振り」と史書に記される美男子は
伸びやかな表情と声で彼の直属武力集団の長を賞賛した。

「はっ、閣下の御威光のお陰にてござりまする」
慣れない公家風の言葉使いを何とか無事に言い終える。
−たまらんな、御館様の趣味は−
毎度の事ながら関西地方を統べる武門の長と思えぬ雅好みには閉口する。
「龍長、逆賊共を懲らしめた武勲に対しての褒美じゃ」
そういって奏者が恭々しく手箱を捧げてきた。
「これは過ぐる年に国王陛下が我が家に下賜された
 由緒ある『雅道』の一品である。心して受け取るが良い」
恩着せがましい管領の説明と共に(本人にその意識はないのだが) 
鮮やかな絵柄が修一郎の目に写った。
「畏れながら、此度の逆賊成敗の功は大所高所より
 我等を指揮監督された戦奉行様に帰するかと存じあげまする」
主君からの褒美には一旦辞退せねばならないのはこの時代の作法なのだが、
この様な愚にもつかない品物などは本心から辞退したい。

「何の、玄武校尉の手柄は万人の認める所ぞ。ささっ遠慮無く受け取られよ」
受け取る素振りを見せない修一郎に対し、儀礼に則って戦奉行が再考を促す。
「遠慮はいらぬぞ、龍長。余の真情じゃ」
−そりゃ、あんたは本心で俺を誉めているんだろうけど、
 余興の賞品と同じ感覚で戦働きを誉められる方はたまったもんじゃない−
そう心中で呟きながらも口から出た台詞は
「それでは、畏れ多くも有り難く拝領仕ります」であった。


奏者からしずしずと手箱が持ち運ばれ、
馥郁とした伽羅の香りが修一郎の鼻腔を擽る。
−そう言えばあの時も同じ匂いだった−
5年前、戦奉行付きの書記として公事奉行から徴兵された
彼は江北戦役の際、本陣にいた戦奉行と共に敗走する途中に
偶然手にした火縄銃で逃げ回る関西管領から『赤虎』を追い払った。
その時、窮地から脱した雅恒は感激の余り
彼の両手を握り締めてその働きを激賞したものである。
−あの時は天上人を眼前に有頂天やったんやけどなぁ−
片頬に笑窪を浮かべながら過去の思い出に浸る修一郎の耳に
関西管領の言葉が入ってきた。

「さてと、玄武校尉」
「はっ」職名と呼ぶのは公務の話のする際のケジメである。
「実は先日の五奉行で不埒なる逆賊に天罰を与えるべく、
 搦め手からも一手の軍勢を派遣する案が出された。
 余も面白そうなので許可する事にした」

−あぁ、甚助が仕入れて来た河南遠征の件ね。
しかしまぁ、よくあんな辺鄙な地に出向く馬鹿騎士を捜したもんだね−

「そこでその軍勢の旗頭を玄武校尉に務めてもらう事にした」
呪いの言葉は数秒の間、修一郎を思考停止の状態に陥らせた。
「幸い、向こうには余の所領も存在する故、そこを根城に働くがよい」

−・・・・・はぁ?何訳の解らんことを抜かしてやがる−

ようやく我に帰った修一郎は早口で言上する。
「畏れながら小生は軍旗は勿論、騎士の列にも叙さぬ貧乏郷士に過ぎませぬ。
 到底、一軍の指揮など不可能にござりまする」
「それなら大事無い。軍旗は追って戦奉行から授けさせて、
 出発に必要なな資金も勘定奉行から出させる。
 彼の地で得た所領はそちの物じゃ」
関西管領は淀みの無い口調で決定事項を伝えた。

−誰の仕業や−
左右に鎮座する五奉行の顔色を観察する。
−公事のあほんだらは渋そうな顔やから反対したんやろう。
 と、なると厄介払いがしたい勘定、
 自分とこ以外の揉め事以外は関心の無い丸崎
 関中にご執心の啓陽衆辺りが手を組んだな−
内情はある程度理解できたが、だからと言って反発や拒否などは出来ない。
正式な対面でそんな事すれば処刑場への直行が待ち構えている。
「御意」修一郎に受託以外の選択は無かった。


 

「公私の補佐役」へ進む

「標関」へ戻る

黒一天へ戻る。

トップページへ戻る。

専門学校情報が満載♪ 海外旅行保険の加入はコチラ! 専門学校情報が満載♪
[PR] | 自動車保険監視カメラ消費者金融スピリチュアル八王子調布三郷久喜中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - レピュテーション・マネジメント・ツール - ハワイ ブログ - Timesell - 国際通話 - ホノルルマラソン - サイト監視 - 風評被害 - ホテル比較 - Delta - ホテル予約