『邂逅』


河南の二大強豪に数えられる波戸川の本拠地、
博方は様々な利権と勢力が混在する宗洋島の縮図を思わせる街であり、
同時に立地条件の良さから各種の商人が集まる事で知られる街でもあった。
賑やかな太鼓を鳴らして客を呼び込む食物屋、
商売文句をがなり立てる路頭の番台達、
美々しい服装であちこちを渡り歩く駄菓子屋、
その雰囲気は辺境らしい騒々しい活気に満ち溢れていた。

社中の一行が殺気立った目をぎらつかせて眼前の相手を睨みつけている。
相手は美しい芸者でもなければ食欲をそそる上質な料理ではない。
すぐ目の前にまで存在する楽しみを邪魔しているのは
先日の抜け荷を取り締まれずに叱責と解雇を食らった荒くれ達であった。
「ようもぬけぬけと儂等の前にその間抜け面を晒しに来やがったな!」
「間抜けに間抜けと言われる筋合いはないぜよ」
お糸との逢引き−少なくとも彼はそう考えている−を邪魔された若者は
尊敬する頭領の方便を真似つつ、舌を出して相手を挑発する。

「この糞餓鬼がっ!」
血管が切れるのではと野次馬達にいらぬ心配をさせる程に
浮かび上がらせた荒くれ達は今にも襲い掛からんばかりである。
「儂等を襲ったら西管家を敵に回すぜよ」
事態の収集に向けて和馬は不本意ながら招待主の権威を持ち出した。
「西管家?」
派手な外見で内実の苦しさを覆い隠す勢力の名は荒くれ達を怯えさせた。
「そうよ、儂等はおまんらのむさ苦しい顔を見にここに来たんと違うぜよ。
 樹州知事の招きでここへ来たがよ。
 もしおまん等が儂等に危害を加えたら樹州知事を敵に回すぜよ」

苛烈な不逞浪人弾圧を聞き知っていた荒くれ達は
怯えから言葉に詰まらせ、次第と後ずさりを始める。
変わり者と評判の新任知事は着任以来、配下の武装勢力を使って
本拠地と周辺地域に屯する不逞浪人達の弾圧を始めていた。
関中での激しい戦を潜り抜けた歴戦の強者と
行商人を脅して糊口を凌いでいた連中では勝負にはならず、
昨今では彼の地と周辺の治安は『奇跡』と称される程に治安が向上していた。


「なかなかやる」
物影から見ていた権八は和馬を賞賛していた。
修一郎の配慮で出迎えに来ていた巨漢はたまたま出くわした騒動を
器量の程を検分出来るとばかりに静観していたがかなりの人物らしい。
「あの位やってもらわんと儂等の大将にはついてこれんがのぅ」
閉山で職を失った鉱山夫と胥吏上がりの指揮官とのつきあいは長い。
「ではそろそろ幕を引くか」
権八は配下を引き連れて表に出た。

当時の平均身長だった五尺ニ寸(156cm)を一尺以上上回る
巨体に威圧された群集達が開いた花道を
権八はゆっくりと歩いていく。
「黄海社中頭領、林田和馬殿はいずこにござる」
戦場で鍛え上げた大声で主賓を呼び上げる。
「こちらでござる」
対等な主客関係では敬語は不用と考えている和馬は
参事相手とは異なり、気安い表現で返答する。
「これはこれは、座興に興じている所を申し訳ない。
 軍団長閣下は今や遅しと首を長くしてお待ち故に
 こちらに足を運んで下されんかのぅ」
そう言って権八は戦場を渡り歩いている強者特有の
不気味な殺気を含んだ視線で荒くれ達を睨み付ける。

「お、覚えてやがれ」
どこかの世界の三下同様に声と裏腹のへっぴり腰で逃げ去る
連中には目もくれず権八は招待主をまっすぐ見つめる。
「お初にお目にかかる。小生は黒一天三番頭、原権八と申す。何卒よしなに」
そう言うと深々と一礼する。
「こちらこそ」
和馬も手短に返答すると一礼する
−こいつが噂の『鬼権八』か。なるほど、河南の腰抜け共では相手にならん−
修一郎同様に(厳密には甚助なのだが)情報収集には
余念のない黄海社中の頭領だった。


「お初にお目にかかる」
威儀を正した招待主の修一郎が深々と一礼する。
「こちらこそ」
主客の和馬も何気に観察しながら丁寧に返礼する。
噂通り『特徴のないのが特徴』と言う顔立ちの男に
正直、戦場での勇名は似合わない気がする。
だが『地位が人を作る』と言う奴なのか挙措に重みがある。

−こいつはひょっとしたら一度時流に乗れば
際限なく上り詰めていく型の人間かも知れぬ。−

そんな事を考えながら和馬は贅沢な料理と上等な酒が並ぶ大広間へと通された。

「さて、まずは一献」
「いや、忝い」
差し出された杯を一息に飲み干した和馬は率直な疑問を
酩酊乱舞する者が続出した宴会でも悠然と杯を傾けていた
黒一天の軍団長にぶつけた。
「貴殿は酔ってはおらぬ様だな」
修一郎自身は別に騒ぐ訳ではないが
不思議と人の心をほぐす術を体得している男は巧みに場を盛り上げ、
一刻(2時間)に渡った大宴会は黒一天と黄海社中との胸襟を広げ合い、
後日に料亭側から弁償と追加料金が請求される賑やかなものとなった。
−面白き男じゃ、さて次は如何なる品を披露する−
その思いが次の首脳同士の密談を承諾させた。

「小生は別の酒に酔っているもので」
数馬の好奇心を知ってか知らずか修一郎は含み笑いを見せながら応じた。
「うちの弥四郎と貴殿の五作殿の様に女中を取り合う訳にも行きますまい」
「互いに助平な手下を持つと苦労しますな」
互いに複雑な思いを乗せた笑いの波長が密談用の席に響いた。
「女子の事は当人の器量次第の事故、如何なる結果だろうと咎めはいたさぬ。
 されど表向きの口上についてはしかと確かめたい」
いささか場の雰囲気を無視して和馬は問うた。
「その儀ならばここに」
手を叩いた修一郎が奥に控える男に持って来させたのは
人間の欲望を禍禍しい黄金色で映し出す大量の金子であった。


「ほう」
和馬は金子の分量に対してではなく、
大金を惜しむ事無く支払う事で当方への信頼を示そうとする
手段に関心を持ったがそれだけに真の狙いが気になった。
無論、和馬に高い評価と引き換えに破滅へと続く道を同道するつもりはない。
「『紅屋』」経由の用立てに如何なる思惑があるのかを伺いたい」
眼前の平凡な顔立ちに始めて変化が現れた。
「我々とていささかの目と耳はある。
 紅屋のご令嬢と貴殿の関係程度の事は承知いたしてござるよ」
御用商人とは言え平民に過ぎない商人の娘と貧乏郷士の結婚には
さしたる障害がないのにも関らず何故か籍を入れないのかに興味はあったが
この場で問い合わせるのは控えた。

−ふうん、なかなかやるな。でもこの位の事はしてもらわんとな−
「我等の狙いは承知かな」
修一郎は能面の表情を取り戻した。
「不浪人対策辺りまでは」
「私は彼等を食わせねばならない」
「それは道理」
「それにはこの地に『黒一天』の旗のみが翻ねばならない」
何気に河南の征服を宣言したが和馬は驚かない。
日々膨れ上がる洋駿の人数ではそれしか道がない。
「差し当たっては大零山に盤踞する連中が目標だ」
確かに大零山を押えれば恒根川の中流の制圧へと繋がり、
波戸川と小室に対して優位に立つ。
修一郎個人の憎悪を別にしても妥当な目標だと思う。

「それには我等の船が必要と言う訳ですな」
この時期、内海のみが守備範囲だった黄海社中に帆船は存在しなかったが
それでも黄海と恒根川を行き来する航海技量は宗洋では群を抜いていた。
「左様、前面の沼地に砦を築くには迅速な物資の運搬が第一条件だ。
それには陸より船足の方が速い」
「・・・貴殿は人をこき使うのが得意な様だ」
溢れ出す人間的魅力は感じないが理詰めの説明で
成功の可能性を感じさせる手法には関心を抱いた。
「此度のお得意様は面白きお方じゃ。社中を賭けても検分する価値がある」
和馬は一方的な主従関係ではなく商売上の立場で付き合う事を宣言した。


 

「利権の狭間で」へ進む。

「官と民」に戻る

黒一天へ戻る。

トップページへ戻る。


生命保険の切り替えはココ 低金利でお得なローン探し 低金利でお得なローン探し
[PR] | 自動車保険監視カメラ消費者金融スピリチュアル八王子調布三郷久喜中国SEO対策消費者金融車 買取テンプレート沖縄旅行免許合宿二輪引越しプレゼントゴルフ会員権留学レーシックマッサージFXアフィリエイトFXホームページ制作デイトレードハワイ旅行タイバンコクハワイ レンタカーベスト ハワイ ホテル レーツバリ島Hawaii hotelsHawaii Activitiesbhhrハワイホテルテキスト広告
【運営会社「パラダイムシフト」サービス】 ハワイ現地オプショナルツアーリラックマ) - ビジネスクラス航空券 - 格安航空券(1) - 格安航空券(2) - 海外ホテル - 韓国旅行 - タイムシェア - ホテル 予約
無料ホームページ - 携帯ホームページ - 無料ホームページ作成 - レンタルサーバー - ブログ - ヴィラ - ハワイ コンドミニアム - バリ島 ホテル - プーケット ホテル - レピュテーション・マネジメント・ツール - ハワイ ブログ - Timesell - 国際通話 - ホノルルマラソン - サイト監視 - 風評被害 - ホテル比較 - Delta - ホテル予約