『オリバー・クロムウェル』


その果した役割は(善悪は別にしても)
世界史上無視できないのにも拘わらず、
史書には殆ど取り上げられない不思議な人物である。

彼が歴史の大舞台に登場するのは『清教徒革命』の頃である。
1583年のアルマダ海戦によって
『日の沈まない大国』スペインから制海権を奪ったイギリスは
海洋国家として着々と勢力を伸ばしていた。
国内では躍進の担い手である毛織業者(マニュファクチュア)が
議会を通じて自らの権益を保証する
基本法の設置・強化を求めたのに対して
彼等を押さえるべく、王権神授説を掲げる国王との軋轢は
やがて内戦と言う形にまで発展した。

この内戦はイングランドを始め、
スコットランド・アイルランドの各地域に広がったが、
それは地方レベルでの小規模の武装勢力同士の争いの域に止まり、
そうなると当然個人レベルの武勇に優れる騎士を多く抱える
国王側が優勢となり、じりじりと戦争全体の主導権を握り始めた。

一方の議会側は内部では国王との妥協(事実上の降伏)を願う
一派(長老派)との権力争いや組織力の未熟さから、
優位に立つ経済力を有効に活用できない為、
一時は本拠地であるロンドンまで脅かされる様になる。
たが、この危機的な状況が一時的にせよ内部の結束を固め、
反国王的なスコットランドを味方に取り付け、
その鋭鋒を鈍らせている間に孤軍奮闘する
新進気鋭の軍事指揮官に全体指揮を委託する。

この人物こそがクロムウェルだった。
彼は民兵や傭兵の寄せ集めに過ぎなかった議会軍を
オランダ独立戦争におけるオランダ軍、
又は三十年戦争におけるスウェーデンの流れを組む
「新型軍」と呼ばれる職業的軍隊に再編する。
そして統一的動きの取れる軍隊は
個々の武勇に頼る国王軍をネーズビーで破り、
議会側に勝利を呼び込んだ。

 


勝利者となった議会であったが、内包する問題は大きかった。
前述した派閥争いもそうだったが、
元々既得権益の確保が反発した理由であって
結果的に国王を処刑したとは言え別に王制を否定した訳ではなく、
一応共和制を名乗ったもののその行く先は全く不明瞭だった。

そんな混迷の時代に軍事力を掌握している
『強い男』クロムウェルが政治の表舞台に登場するのは
当然の流れだったのかも知れない。
彼は内部での権力闘争に打ち勝つと事実上の国王と言える
(国王即位は指示基盤である軍隊から反対された)
『護国卿』に就任、独裁的権力を打ち立てた。

クロムウェルは政治家としては決して一流とはいえなかった。
彼の統治体制は基本的に『軍部独裁』の範囲内に止まり、
特定の宗教勢力(ピューリタン)のみに立脚して
反対、又は中立勢力の取り込み(消極的な支持)を得られない
その政治基盤はお世辞にも磐石とは言えなかった。

或いは彼自身も己の力量不足を実感していたのかも知れない。
彼は周囲の目を外に向け、且つ得意分野での力量を示すべく、
反対派の鎮圧を口実にスコットランドやアイルランドを征服し、
(特にアイルランドでの彼の軍隊の蛮行はじはしば史書で指摘される)
航海条令の発布を引き金として
オランダと3度に渡る戦争(英蘭戦争)を戦った。
そんな綱渡りの様な政権運営だったが
当時のヨーロッパ大陸は30年戦争の余燼が燻り、
フランス・スウェーデン・スペインといった
大国に介入される心配がなかった政治状況が幸いし、
クロムウェルが没するまでは何とか共和制(名前だけだが)は持ち応えた。

彼の死後、当然の様に王制に戻った
イギリスはその後再び政治体制を変える事はなかった。
王制否定のシンボルとなった彼への記録は
当初は悪口雑言で埋め尽くされたものの
時が流れ、その衝撃が薄れるのに比例して次第と再評価され始める。
しかし、それは彼が偉大だったからではない。
彼が自分の役割に忠実だったからである。


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