焚き火の前に集まるあらくれ男達が三味線と太鼓が賑やかに鳴らしながら、
大道芸を演じる田舎一座の芸に手拍子を合わせている。
「ちょいやさ、ちょいやさ」
「あ、ほーれ、ほーれ、ほーれ」
草賊にしては豪壮な酒食を胃に流し込む様子をさり気なく観察しながら
甚助は脳中にしまい込んだ複数の情報に照らし合わせる。
−ふむ、やはり小室と大零山の提携は事実だったか−
一週間前の光景が虚空に浮かんだ。
「おありがとうございます、おありがとうございます」
派手な衣装を着込んだ甚助達が拍手喝采の中、頭を下げる。
情報収集の為に小室家の本拠地である田松にまでやってきた
情報収集の集団は大道芸人に成り済まして市井に転がる
情報を拾い集めていた。
一つ一つはとるに足らない情報であっても繋ぎ合わせてみると、
思わぬ真実を発見する時がままある。
但し、気の遠くなる様な根気と相応の資金が必要とされる
この手の仕事はその重要性を古今東西に限らず認識されながらも、
意外と手を抜かれる事がままある。
ましてや騎士同士の派手な一騎打ちの概念から脱却していない
宗洋ではこの手の仕事は軽視と言うより無視と言っても良い程の扱いであり、
甚助の仕事が他勢力からの掣肘を受けると言う事はなかった。
「ほう、やはり御成婚あそばれしか」
大道芸で稼いだ銭で飯屋で酒を食らいながら集めてきた情報を整理する。
こういった騒がしい所の方が人々の耳目を集めにくく、
且つ人通りの多い方が出入りしても怪しまれないので
甚助は大通りに面した飯屋に本拠地を置く事が多かった。
「はっ、明年一月十五日との由」
配下が問屋先で仕入れた情報を披露する。
「お姉さん、若様の御成婚で小室も安泰かねぇ」
密談と取られない様にわざと明るい声で女中に声をかける。
「いやー、どうでしょうかね」
解らないのではなく、何か不満を隠すかの様に首を傾げる。
−ほう、小室は余り民心を得ていない様だ−
その理由が解れば修一郎の河南経営に大いに役に立つ、
甚助はそう直感した。
食事を済ませた甚助達はとある士大夫の屋敷へと出向いた。
旅芸人の一座が収入と庇護者を得る為に有力者の屋敷へ
自らの芸を披露するのはよくある話であり、
この時代の宗洋ではそうした芸人達をいくつ抱えているかが
一種のステータスと化していた。
「其の方共、なかなかのものだったぞ」
40代半ばの人の良さそうな主人が甚助達が披露した演劇を評価する。
演劇自体は姫島で流行っているものを真似たもので
出来映えの点では本家には遠く及ばない代物ではあるが、
関東の影響が濃い小室家での拙い観劇に慣れた身では
充分以上に賞賛に値する出来に写った。
「ありがとうございまする。某共も小室様家中でこの人ありと知られた
原田様の御前で拙き芸を披露出来た事は今生の思い出となりまする」
「だがのう」
ここで主人は苦そうな表情を見せる。
「そち達を抱えてやりたいのはやまやまなのじゃが・・・・・・
何分にも当家も物入りでのぅ」
「と、申されますると」
「うむ、実は若様の御婚礼に際して
主家から無心を頼まれておってのぅ・・・・」
我々からみればこんなにぺらぺらと機密事項を喋って良いものかと思うが
この時代の『芸人』の社会的地位は低く、士農工商の身分枠から外れた
『外人』としてまともな人間扱いを受けていなかった。
「左様でございますか」
内心の『当たり』に対する笑みを隠すかの様に
甚助は如何にも残念そうな表情を見せる。
「そう言う事ならば手前共と致しましても納得するしかございませぬ」
「うむ、だが儂はそち達が気に入った。また来てくれぬか」
「はい、それはもう喜んで」
新たな情報収集の場が出来た事に対する喜びがうりざね顔から
僅かにはみ出るが、主人は食い扶持の確保と単純に受け取った。
「少ないが鳥目(代金)も用意した。後で台所で受け取るがよい」
「ははー」
甚助は深々と頭を下げた。
その日の夜は裏通りの安宿に泊まった。
身分の低い芸人に成り済ましている彼等は
無論一頭地に聳え立つ旅館に泊まれるないのだが、
実際上の問題からして姓名を記す為に足のつく可能性の高い所に
泊まるわけには行かなかった。
「ほぅか、そっちもか」
上司の丹州弁が写った甚助が確認を取る。
「はっ、原田と対立する渡辺もやはり台所は苦しい様で
我等の芸に対して感心しつつも『お抱え』は難しいとの事」
「解った。御苦労だった。もうここには用が無いので
明日にはここを出立する。皆にも伝えてくれ」
「はっ」
一礼した腹心格の男が去り行く背中を見つめながら、
甚助はこれまで収集した情報の整理を始める。
『士大夫の連中は押しなべて金銭的余裕がない』
『庶民にも主君の慶事を歓迎する風がない』
これだけ考えると小室家が別の所に金銭を注ぎ込んでいると推測できる。
しかし・・・・・・・現地点で関東に動きはない。
少なくとも筆頭家老の権勢は安定しており、
政敵である他の七家老にしても激しい火花を散らしている訳ではない。
「とすると・・・・・」
甚助はここに来るまでの道中に何故か大零山に盤踞している
不逞浪人達を見かける事が少ない事が気にかかっていた。
大零山以西から洋駿がほぼ『黒一天』に制圧されている以上、
こちら側で稼ぎを増やす必要がある筈なのに・・・・・・・
『新たな稼ぎ口を確保した』と推測できる。
さらにはどうやら両者が手を結んだとも推察できる。
小室に取っては安全保障にもなり、
山賊達も敗者故のいびつな自尊心を傷つける必要がない。
「・・・どこで接触している?」
自分の推測だけで伝えていたのでは細作筆頭の名が廃る。
確実な裏を取らねば役目を果した事にはならない。
甚助の腕の見せ所であった。
その日の夜は裏通りの安宿に泊まった。
身分の低い芸人に成り済ましている彼等は
無論一頭地に聳え立つ旅館に泊まれるないのだが、
実際上の問題からして姓名を記す為に足のつく可能性の高い所に
泊まるわけには行かなかった。
「ほぅか、そっちもか」
上司の丹州弁が写った甚助が確認を取る。
「はっ、原田と対立する渡辺もやはり台所は苦しい様で
我等の芸に対して感心しつつも『お抱え』は難しいとの事」
「解った。御苦労だった。もうここには用が無いので
明日にはここを出立する。皆にも伝えてくれ」
「はっ」
一礼した腹心格の男が去り行く背中を見つめながら、
甚助はこれまで収集した情報の整理を始める。
『士大夫の連中は押しなべて金銭的余裕がない』
『庶民にも主君の慶事を歓迎する風がない』
これだけ考えると小室家が別の所に金銭を注ぎ込んでいると推測できる。
しかし・・・・・・・現地点で関東に動きはない。
少なくとも筆頭家老の権勢は安定しており、
政敵である他の七家老にしても激しい火花を散らしている訳ではない。
「とすると・・・・・」
甚助はここに来るまでの道中に何故か大零山に盤踞している
不逞浪人達を見かける事が少ない事が気にかかっていた。
大零山以西から洋駿がほぼ『黒一天』に制圧されている以上、
こちら側で稼ぎを増やす必要がある筈なのに・・・・・・・
『新たな稼ぎ口を確保した』と推測できる。
さらにはどうやら両者が手を結んだとも推察できる。
小室に取っては安全保障にもなり、
山賊達も敗者故のいびつな自尊心を傷つける必要がない。
「・・・どこで接触している?」
自分の推測だけで伝えていたのでは目利き耳聡筆頭の名が廃る。
確実な裏を取らねば役目を果した事にはならない。
甚助の腕の見せ所であった。
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