私が連載している小説は『近代化』がメインテーマなのだが、
別に中世に興味がない訳ではない。
否、むしろ技術革新が個人の職人芸レベルに止まり、
各々の知恵と個性が前面出る分たけ魅力的な世界なのかも知れない。
今回、紹介するのはそんな中世の桎梏の範囲内で懸命に
自分達を表現しようとしいた人物達の物語である。
時代は極東の地で南北朝時代真っ盛りだった頃の話である。
当時、時差にして9時間程度離れていた『騎士の国』では
一応国家の態を成していたイギリスと領主貴族の連合政権であった
フランスが百年間に渡ってだらだらと戦争『状態』を続けていた。
歴史の教科書では『百年戦争』と称される
この状態は別に年から年中戦争していた訳ではなく、
単にフランスの地で刺激に飢えた騎士達が『暇な時だけ戦争』に
明け暮れていただけの事であった。
尤も『暇な時だけ』とは言え戦争による間接的な被害は
古今東西の例に漏れずしっかりとフランス全土を襲い、
各地では夜盗紛いの略奪行為を仕出かす傍迷惑な連中や
傭兵気取りの無頼漢が世間を闊歩していた。
そんな輩の中に劣勢に立つフランス側陣営に与して気を吐く漢がいた。
名をベルトラン・デュ・ゲクランと言う。
日本に居住する身からすると奇妙な印象を与える
姓名の持ち主は文字通りの『破格の男』だった。
個人としては滅法強い喧嘩屋、戦場では天才的な冴えを見せる指揮官。
性格は良く言えば天衣無縫、悪く言えば大きな子供。
そんな彼が歴史の表舞台に立つのはある些細な理由からだった。
一般に『フランス』と言えば良くも悪くも
『中央集権』『絶対王制』的な色彩が濃いイメージがある。
しかしそれはあくまでも中央集権制が完成した
近世以降の話であり、
中世における王権は足利幕府とどっこいどっこいの
脆弱な権力基盤の上に成り立っていた。
そんな訳だから足元で何か騒動があるとたちまちにして
『御手元不如意』の状態に陥り、当時フランス王家に合力していた
デュ・ゲクランの給料は一切払われなかった。
無論、そんな事情はフランス北部の片田舎に在住している
デュ・ゲクランの知る所ではない。
(無論、この時代の情報速度は大変遅い)
キレた彼は無謀にも直談判に及ぶべく、
当時(今でもだが)欧州随一の大都市、パリにまで直談判に出向く。
彼に取って幸運だったのは民衆蜂起に直面して無政府に近い状態で、
フランスの首都は王宮でも比較的忍び易い状況だった事、
そして既成の枠を(あらゆる意味で)はみ出てている
彼を使いこなせる人物に出会えた事だろう。
『革命児を使いこなすには主君がそれに輪をかけた
存在でなければならない』
作中でイギリス陣営側(ライバル陣営)の要人が語る台詞である。
未だにパソコンを使いこなしていると言い難い
私には耳の痛い言葉だが
少なくとも後に『賢王』として歴史に名を残すシャルル5世は
(登場する段階では王太子だが)
破格の人物を使いこなせるだけの器量を持った人物だった。
そしてフランスに取って幸いだったのは
(イギリスに取って最悪だったのは)
この両者が見事なまでに波長が合い、
且つそれぞれの短所を補う
理想的なデュオの関係を築き上げた事だろう。
古代ローマ帝国において皇帝のみが使用出来た紋章をつけた
彼等の具体的な活躍については実際に本を手に取って
読んだ方が面白いと思うし、実際それだけの価値がある本だと思う。
同時にこの本を読むと如何に通常の『歴史』の授業が
犯罪的なまでにその面白さを潰しているかが理解できる。
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