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十字軍興る!

 

●十字軍誕生秘話●

 

 世界史の中においても重要項目とされる十字軍。まずは、その始まりから見ていこう。

 11世紀後半。シリアはセルジューク・トルコの支配下にあった。このセルジューク・トルコはイスラム教国家であり、かつてこの地を支配していたビザンツ帝国(東ローマ帝国)を打ち破り、シリアを制圧、さらに、ビザンツ領であるアナトリア半島(小アジア半島・現在のトルコといったほうがわかりよいか)へその矛先をむけようとしていた。

 ビザンツ帝国はローマ帝国の正統とキリスト教の正統を受け継ぐ国家と自負しており、もう一つのキリスト教の総本山であるローマ教会と非常に中が悪かった。しかし、かつて地中海を「ローマの内海」と称し、一時はシリア、エジプトまでをもその支配下においたビザンツ帝国もここに来て、往時の威勢はなくセルジューク・トルコに押されっぱなしであった。このままでは、アナトリア半島を制圧され、ついには帝国の首都、コンスタンティノープルも陥落するハメに・・・。そこで、ビザンツ皇帝・アレクシオス1世は、誇りを捨てローマ教会に助けを求めることにした。ちなみに、この時、アレクシオス一世は、アナトリアへ侵攻してくるトルコ軍を迎撃するための軍事支援を求めたにすぎなかったのであるが、皇帝はこともあろうに

「聖地(エルサレム)で迫害が起きている」

とデマを吹いたのである(エルサレムのキリスト教徒は自分達がムスリムから迫害されていると教皇に訴えたことは一度もなかった)、皇帝としては、ただ軍事支援を要請しただけでは、今までのローマ教会との対立も考えれば虫のよい話である。そこで、「キリスト教の同胞」という意識をもたせ、要請を通りやすくするための方便としていったのであるが、瓢箪から駒、結果として国家間における戦争ではなく宗教戦争という形をとることになってしまったのである。

 当時のローマ教皇・ウルバヌス2世は1095年11月、クレルモン公会議において、

「あなたたちは、東方にいる同胞達に大至急援軍をおくらねばならぬ。ペルシアの住民なるトルコ人が教会を破壊し、神の国を荒らし回っている。あの忌まわしい民族を私たちの土地から根絶やしにしろ!」

と諸侯に聖地奪回の呼びかけをおこなった。時に教皇の権力は絶頂期へと登っていくときであり、西ヨーロッパの諸侯はこの教皇の呼びかけに賛同し、第一回の十字軍が興ることになった。

 しかし、ローマ教皇も、西ヨーロッパの諸侯も宗教的情熱だけで兵をおこしたわけではない。

 ローマ教皇にしてみれば、うまくいけばビザンツの東方教会を併合できるかもという打算があったし、西ヨーロッパの諸侯達にしてみれば、自国の人口が増え、自国内で養うことが困難になったため、植民地獲得のためという理由もあった。

 そして、1096年。ついに第1回の十字軍が編成され、聖地エルサレムにむけて進軍がはじまった・・・。

 

●その頃、ムスリム諸国は・・・●

 

 その頃、イスラム諸国は大きく二つの勢力に分かれていた。

 バグダートのアッバース朝カリフを擁護するセルジューク=トルコ・・・ビザンツ帝国領を脅かし、アレクシオス1世がローマ教会に助けを求めるきっかけになった勢力であり、クレルモン公会議において、「忌まわしい民族」といわれている「トルコ人」とはまさしく彼らのことである。

 そして、エジプトに威を張っていたのはファーティマ朝である。ファーティマ朝はバグダートのアッバース朝がイスラム教スンナ派のカリフをたてているるのに対して、イスラム教シーア派のカリフを擁立していた。キリスト教が東方教会(ビザンツ帝国)と、ローマ教会の二つに分裂していたように、イスラム世界にも異なる宗派による対立構造ができていた。

 さらに、1092年、状況はムスリム側にはマズくなっていった。セルジューク朝絶頂期の担い手であったスルタンが死ぬと、ルーム(アナトリア)朝、シリア朝、イラン朝の三つに分裂してしまい、さらに各王朝内においても相続争いがおき、弱体化の道をたどることになってしまった。

 このような状況下において、1096年。十字軍は中東の地へと兵をすすめてきた。十字軍はアナトリア半島から海岸沿いに兵力を南下させて、エルサレム奪還を試みた。もちろん、ルーム・セルジューク朝、シリア・セルジューク朝は十字軍に対して抗戦し、時には十字軍を大敗させることもあったが、バグダートのイラン・セルジューク朝は自分達の領土に直接被害がないため、たいした支援をすることもなかった。さらに、エジプトのファーティマ朝に至っては、十字軍の南下に呼応して、聖地エルサレムを自分達の領土に組み込んでしまうありさまであった。

 ムスリム諸国は足並みが揃わないため、じょじょに十字軍におされ、1099年。聖地エルサレムは十字軍の手におちてしまう。十字軍はここぞとばかりにエルサレムの住民を虐殺した。ちなみに、この虐殺のさまは勝利者である十字軍側の資料に誇らしげにかかれている。キリスト教徒の敵は悪であり、悪を討つことはまさに正義といった具合である。こうして、十字軍はエルサレムを手中におさめたわけではあるが、アナトリアからエルサレムにいたるシリアの海岸沿いに北からエデサ伯領、アンティオキア公領、トリポリ伯領、エルサレム王国をつくり、三諸侯国はエルサレム王国の従属国になるというかたちとなり、十字軍による遠征は成功をおさめることとなった。

 ちなみに、ビザンツ皇帝・アレクシオス1世は「奪還した領土はビザンツ帝国のもの」と発言して、十字軍を編成した諸国をあきれさせるが、ちゃっかり領土を手にいれていたりする。

 しかし、イスラム諸国もいいようにやれているばかりではない・・・。これから五十年の後、彼らは十字軍国家に対して牙をむく。そこに至るには一人の英雄の登場を待たねばならなかった。

 

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